真夜中の恋人37

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 千雪は怪訝な顔で速水を見た。
「聞けばその社長の工藤とやらはヤクザの組長の甥とかで、業界じゃ評判の男らしいじゃないか。そんないい加減な男の口車に乗って、映画化なんて喜んでると、後で泣きを見ることになるぞ?」
 この男、どういうつもりや?
 千雪は怒りで熱くなるより段々冷えていく。
 探偵小説が映画化されることが面白ろないから俺のこと荒捜しして、今度は工藤のことをこき下ろす、いうわけか?
「聞けば、に、らしい、ですか? 速水さん、工藤さんのことどのくらい知ってはります?」
「ああ?」
 警視庁で事情聴取を受けたとき、工藤をヤクザ呼ばわりした所轄の刑事のことを千雪は思い出していた。
 頭から工藤をヤクザと見下しているその正義感面にはかなりムカついたが、千雪のことを見下したいが故に工藤のことを持ち出している速水に対して、反吐が出る思いがして、千雪は立ち上がる。
「根拠のない噂話なんかに踊らされて、仮にも心理学者ともあろう人が、そう知らん他人を貶めるような不用意な発言はされん方がええ思いますけど?」
 口調は穏やかだったが、これにはさすがに速水も気色ばむ。
「せっかくの先輩の忠告を無視するわけか? 京助もお前さんは騙されてるんだとか言ってるぜ?」
「あんな、何考えてるかわからねぇヤツだぞ? お前、わかってんのか?」
 京助はこの際速水に便乗しても、千雪に工藤から手を引かせたいのだ。
「京助こそ、わかってないやろ? これは俺と工藤さんの問題や。先輩方には関係あれへん」
「千雪、てめぇ、まさかあのやろうに……」
「京助!」
 カッカきている京助が今にも下手なことを口走りそうだと、千雪は声を上げた。


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