真夜中の恋人42

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 容疑者と言えば、昼にやってきた渋谷刑事の話も実は気になっていた。
 一ヵ月ほど前、足の不自由な老女が殺害され、数日後、近所に住む高校時代から補導暦があるという老女の孫が逮捕され、アリバイもなく、被疑者のものである血まみれのジャケットと包丁が見つかっており、目撃情報もあることから起訴されることになったのだが、この男が一貫して無罪を主張しているという。
 被疑者は検察へ送られたが、凶器と断定された包丁の指紋は拭き取られているし、渋谷は無罪を主張し続ける男の言い分を満更否定できないと言って千雪のところにやってきたのだ。
 だったら、男が無罪であると仮定して始めから事件を組み立ててみて、出てきた矛盾点を調べなおしてみたらどうかと千雪は進言したのだが、もしこの男が無実にもかかわらず、渋谷のように考える者が捜査側にいなかったとしたら、また冤罪を作ってしまうことになるのだ。
 いや、もし自分もアリバイを証言してくれる人間がいなかったらと思うと、やはりぞっとする。
「そうそう、君のアリバイを立証したのが工藤だって?」
 小田から工藤の話題を持ち出されて、千雪はラッキーと思う。
「知ってらしたんですか?」
「ああ、ちょっとした伝があってね。それに君の小説を映画化するという話じゃないか、工藤にしてみれば結構大きな仕事になるようだし、私も影ながら応援くらいはさせてもらうよ」
 ワハハと豪快に笑う小田からは誠実な人柄が窺えた。
「工藤さんとは今も親しくされてはるんですか?」
「まあね、俺は工藤の顧問弁護士ってことになってるし、俺たち工藤と俺と検事の荒木ってやつと三人、同期でね。三者三様の道を歩いているが、年に一度は飲み会で互いの憂さを晴らしてる」
「そうなんですか」


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