真夜中の恋人44

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 小田はじっと千雪を見つめていたが徐に口を開いた。
「うちの秘書殿も君の小説のファンでね。そう、こんな素適な名前なのに、奇抜な風貌らしいって面白がっていたよ。私はまだ生憎読んだことはないが……。工藤は仕事のできない俳優なんかは容赦なく切り捨てるという残忍なことを平気でするやつでね。業界じゃ、鬼の工藤とか異名をもらっているらしいが、仕事に対しては真摯なやつだから、気に入らない小説を映画化するなんてことはないよ」
「そう…ですか。宮島教授も工藤さんのことを気にかけておられたみたいです」
「桜木ちゆきは……」
 小田はそれだけ言うと立ち上がって、窓際に向かい千雪に背を向けた。
「俺たちの仲間で、工藤の恋人だった。宮島教授は二人のことを微笑ましく見ていたよ。だが二人が背負っているそれぞれの背景が厄介でね。工藤は叔父が広域暴力団の組長で、桜木は政治家の娘だった。二人は引き裂かれたことが原因で桜木は自殺した。表向きは」
「自殺? ですか? 何で、自殺やなんて。駆け落ちするとか、ほかにも方法があったはずでしょ」
 千雪は思わず声高になった。
「桜木? 政治家というと、まさか何年か前、贈収賄事件で起訴された桜木代議士?」
「そうだ。君の言う通り、引き裂かれて自殺なんて、今時はやらないよな」
 小田は苦笑いしながら振り返った。
「いえ、境遇とかは違うかもしれませんが、俺の両親、駆け落ちやったんです。母親には縁談があったし、祖父がしょぼい学者の卵なんかに大反対で」
「君は幸せな家族の中で育ったんだね」
「ええまあ。子供残して、とっとと親父も母親の後を追って逝ってしまうくらい仲がよかったみたいで」


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