真夜中の恋人45

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 千雪は笑った。
「そう。……いや、工藤も甲斐性がなかったわけではないんだ。だが、実を言うと彼女は社会正義のために自殺したんだ」
「え?」
 千雪は驚いた。
「どういう……?」
「引き裂かれたくらいで自殺されたら、工藤が可哀想だろう。平手政秀を知ってるかね?」
「信長の重臣ですか? 確か、信長のために諌死したという説がありますが」
「桜木は戦国武将も真っ青なことやってくれたわけだ。だが、残念なことに、桜木代議士には死を以って諌めようとした彼女の意志は伝わらなかった。桜木代議士が起訴されたのは彼女が亡くなって何年後かだが、彼女が荒木に渡していた代議士のデータのいくつかが証拠として採用された」
 思いもよらない事実だった。
「まさしく諌死…ですね。でも工藤さんとしてはやりきれないですね」
「そうだ。やりきれない。だから今も引きずっているんだろう。だが、俺も荒木も未だにやりきれない。何しろ桜木は表舞台からは退いたが、フィクサーとして今でも影響力は大きい。さらに代わりに表舞台に挙げた娘婿というのが、元ちゆきの婚約者でちゆきが死ぬと、その妹にそのままスライドだ。考えただけで胸糞が悪くなる」
 穏やかそうだった小田が激昂する。
「いや、つい、桜木の件を思い出すとカッカきてしまう。俺も修行が足りないな。当時、三人で司法試験を受けたのは桜木の弔い合戦だった。俺にとっては桜木は戦友みたいなものだ。こうして法律に携わる仕事をしている者としても桜木のことを忘れることはできない」


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