真夜中の恋人50

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 京助はそう言い切ると、苦々しい顔の速水を残して店を出た。
 速水が帰るまでは会わない、部屋にも来るな。
 数日前、昼に速水とひと悶着かました夜、千雪からそんなメールが届いたきり、携帯も切っている。
 昼もカフェや学食にも現れず、連絡も取れないのが歯がゆいのだが、無理に押しかけたりしたら、千雪のことだ、それこそ本当に絶交なんてことになりかねない。
 幸か不幸かやりかけて放ってあった論文は妙にはかどったものの、千雪欠乏症はそろそろ限界にきている。
 バーを出てタクシーを拾うと、京助は千雪のアパートの方へ向かった。
 だが部屋に行くわけにもいかず、近くにある行きつけの一杯飲み屋へフラリと入る。
「おや、京助さん、今日は相棒は一緒じゃないの?」
 カウンターといくつかある狭いテーブル席は学生や馴染み客でほぼ満席である。
 この「寿々屋」は夫婦でやっているのだが、元は向島の芸者だったというちょっと色っぽくてきっぷのいい女将の鈴子が人気で、板前の夫はおしゃべりなおかみとは打って変わって、ぶっきらぼうで恐持てである。
「やっぱこの店、ほっとするよ」
 大根の煮物をつつきながら徳利を傾ける京助は、派手な遊び人たちが屯すバーとこの店を比べてみて本心からそんな気がした。
「こんなうるさい店が? うれしいねぇ、京助さんみたいなイケメンがそんなこと言ってくれるとあたしゃもう思い残すことはないよ」
 もう思い残すことはない、は女将の十八番だ。


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