真夜中の恋人84

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    Act 7

 寿々屋通いが最近日課になりつつあった。
「女将、もう一本」
「はいはい、どうぞ」
 女将から酌をしてもらい、京助は厚揚げを追加で頼む。
「この里芋、美味いな」
 里芋の煮物は女将のおすすめだったが、この店の煮物はどれも美味い。
 味付けや食材など、女将は惜しげもなく教えてくれる。
 もともと料理は好きな京助にとって、美味いもののレシピはぜひ知りたいのだ。
 だが、料理は作ってやりたい相手がいてこそのもので、もうずっと、これを千雪に食わせたら喜ぶだろう、しか頭にない。
 だから食べる人間がいないのに作る気は起きず、研究室を出てからここでこうして一人寿々屋の暖簾をくぐる。
 ちぇ、早いとこ帰りやがれ。
 文子はまだしも、千雪が煙たがっているのは速水の存在だ。
 実際、不覚だったと今更ながらに後悔しているのが、速水が合鍵を持ったままだったのをすっかり忘れていたことだ。
 よもや自分の留守に、しかも寝室で千雪と速水が出くわすことになろうとは努々思いもよらなかった。
 にしたって、あいつ、あんな狭い了見のやつだったか。
 ニューヨークの友人連中の中には、ゲイなんて珍しくないはずだ。
 紹介してくれた同僚にも確かいたと記憶している。


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