真夜中の恋人97

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 リビングのソファから床から、グランドピアノの上まで資料やら本やらで散らかり放題、テーブルの上のノートパソコンの横には、煙草の吸殻が山盛りになった灰皿。
「論文か? しかしこの有様、色男が形無しだな」
「うっせーよ。てめぇ、そんなこと言うために、こんな時間にわざわざ来やがったのか?」
 くわえていた煙草を山盛りの灰皿に押し付けた京助はテーブルに置かれた飲みかけの缶ビールをひと息に飲み干した。
「客には何もくれないのかよ」
 速水は上着を脱いで傍らの椅子に引っ掛けた。
「何が客だ。勝手に飲めばいいだろ」
 勝手知ったるで、速水はキッチンの冷蔵庫からビールを持って戻ってくると、ピアノをちょっとさわってからプルトップを引いた。
「スタンウェイも台無しだな。これ、かなりいいシロモノだぜ?」
「フン、お袋の形見だから置いてるだけだ。俺は弾けやしねぇし、そのうち兄貴にでも引き取ってもらうさ」
 面白くもなさそうな顔でノートパソコンの画面を睨みつけてから、速水に向き直った。
「だから、一体何の用だ? 見りゃ、わかるだろ? 俺は明日までにこいつをあげなきゃならねぇんだ」
 速水はビールをぐいと飲み、ふうと息をついてから京助を見た。
「あの夜、飲み会の、お前のあとをつけた。てっきり俺は、お前が恋人んとこ行くんじゃないかと思ってたから、何だ、名探偵のアパートじゃないかって思って引き上げたよ。あの時はな」


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