お正月1

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小林千雪にとっては混とんとした歳が終わろうとしていた。
春のことだ、青山プロダクションの工藤に小説の映画化を持ちかけられて、最初は断ったものの結局承諾することになったのだが、その時はその先のことなど何も考えていなかった。
映画となれば自分の手を離れて工藤に全て委ねてしまえばいいものだと思っていた。
ところがことはそう簡単にはいかなかった。
工藤が千雪に話を持ち込んだ時には、スポンサーから配給会社、出演者、監督等制作関連側には既に打診済み、原作者である千雪の承諾を待つばかりという状況で、千雪がサインをするや否や、制作サイドは始動した。
制作は順調に進んだが、千雪は我関せずでいるわけにいかなくなった。
撮影が終わり、秋頃にはゴールデンウイーク公開予定の映画のプロモーションが大々的に行われるようになると、とばっちり、と千雪にしてみればだが、雑誌からテレビ局からインタビュー依頼が舞い込んだ。
依頼ならまだしも大学の帰りに女性記者に待ち伏せされた日には、工藤のオフィスに怒鳴り込んだ。
「わかったわかった、俺を通せと言っておく」
相変わらず長い電話を終えたあと、工藤がそう言うとまた電話がかかってきた。
俺を通せ、いうことは、拒否るとちゃうやろ!
忙しい様子の工藤にそれ以上何も言うことができないまま戻ってきた千雪だが、嫌な予感はあたった。
「なかなか真面目な編集者みたいじゃないか。マスコミに追い回されたりするのは不本意だろうが、映画は随分前評判がいいようだし、一度くらいインタビューを受けてみたらどうかな」
直接のインタビュー依頼には工藤を通せと言って断ったものの、千雪本人に頼んでも拉致があかないと思ったのか、佐久間は姑息にも宮島教授を籠絡したのだ。
再三インタビューを依頼してきたのは、佐久間のつき合っている女性編集者だった。
本人の写真は小さく顔写真だけにしろと工藤が釘を刺したため、無意味な写真を取られることもなく、『真面目な編集者』は確かに千雪の小説をよく読み込んでいたし、千雪の人相風体に対しては一切触れなかった。


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