かぜをいたみ 10

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「何か、妙に渋い! 今日のスーツ」
 アスカが小声でぼそっと口にする。
「余計なお世話や」
 最近は千雪も昔ほど服に気を使わなくなってきた。
 といっても、わざとみずぼらしいようなヨレヨレの上着やスニーカーを身につけるのはやめただけだ。
 この日身につけているものも、紫紀が用意してくれているワードローブからオーダーメイドスーツの一着である。
 夏用に軽い素材で作られたスーツは、思った以上に着心地がいい。
 最近は大きな学会にも顔を出さざるを得なくなってきたし、妙なものは着ていられない。
 その上、千雪がどうしても買うとしたら、ごくごく普通の二着でいくらというようなつるしのスーツでいいと思っているにもかかわらず、京助が勝手に買ってきたりして押入れに増えている。
 従姉の小夜子が京助の兄、綾小路紫紀と結婚してからは、彼女のみならず、紫紀までもが自分の弟たちと同様千雪のワードローブを充実させるべく気を使ってくれるのであるが、これには逆らうこともできない。
 紫紀の用意するものは、T大法学部助教として派手すぎず、かといってどこに着て行っても恥じることのない上等のものだ。
 プライベート用にと届けてくれるものは、本来の千雪によく似合う、最新ブランドのものだったりする。
 おかげで千雪は、最近服を自分で買ったことがない。
「ダンヒルなんて、ユキには早いわよ」
「うるさいな」
 そこへアスカの後を追うように流がやってきた。
「小林先生、俺、一回聞いてみたかったんだけどさ、今回、俺を選んだ理由は?」
「キャスティングもみんな工藤さんに任せてありますから、俺の意見は入ってませんよ」
 またしても挨拶もそこそこにいきなり軽く割り込んできた流に、内心またムッとしたものの、小林先生、としては何とか自分を制した。
「へえ……」
 しばし流はじっと千雪を見つめていたが、
「じゃ、今回俺を起用したことについての、先生のご感想は?」
「それは作品を見てみないと、何とも答えられません」
 いかにも生意気そうなその態度に、いつかの夜のシーンとあいまって、ほんの少し千雪の口調がいらつきを含む。
「なるほど」
 それからすぐに撮影に入ったので、千雪はしばらく隅で役者が演技するのをぼんやり眺めていた。

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