かぜをいたみ 5

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 工藤が一行を引き連れて入ったのは、接待で時々使う静かな会員制クラブだった。
「千雪さん、メガネ、もういいんでしょ?」
 千雪が返事をする前に、浩美は千雪のメガネを勝手に外してシャツのポケットに入れてしまう。
「変装のままテレビ出るのんか?」
 研二が笑う。
「でなきゃ、出たりせーへん」
 研二は手櫛で額に降りた千雪の前髪を分けてやる。
 傍にいたし、あまりにも自然だったのであるが、周りの者は思わず二人を見た。

 奥に通され、向かいに座った研二を工藤はマジマジと見つめた。
 なるほど、こいつが匠の男で、千雪とは昔相思相愛だったって? フン、幼なじみね。
 ずっと眉間に皺を寄せたままの京助には苦笑いを隠せない。
 研二を挟むように匠と千雪が座り、京助は工藤の横にふんぞり返っている。
 いつもの毒舌の京助とは対照的に、研二はあまりしゃべらず、静かに飲んでいた。
 匠は周りの雰囲気などおかまいなく絵や能のことについてしゃべり、浩美とはミラノやパリの話題でひとしきり盛り上がった。
 時々話し掛ける匠に研二は優しく微笑みを返す。
 千雪は始めは口数が少なかったが、むやみに酒を空け、頭の中のもやもやを吹き払いたくて、時々口を挟んだ。
 工藤はその会話の中で、何となく研二と京助と千雪の関係を推し量る。
 さらに匠と研二の関係も。
 匠から研二と千雪、それに匠と研二についてはかいつまんで聞いてはいたのだが、京助は千雪を挟んで恋敵であるはずの研二に対して、らしくもなく牙をむこうともしない。
 一方研二は匠に言葉を向けられると優しい目をして頷いて見せるが、どうしても匠の方が一生懸命なようだ。
 しかし研二と千雪からは、幼なじみという要素のみしか把握できない。
 そんな時、思いがけない飛び込みがあった。
「あれー、工藤さんじゃん」
 若手俳優の有望格、大澤流。
 映画監督と有名女優の間に生れた二世俳優で二十六才になる。我侭でちょっとくせがあるが、親譲りの端正な顔と演技の巧さで数年前から注目を浴びていた。
 大学までアメリカで過ごし、卒業と同時に帰国したが、その生意気な態度だけはすっかり有名になってしまっている。
「あれ、そっちは確か能の先生だよな、どーも」
 匠が「どうも」と愛想よく返すと、流は今度は千雪に目を止める。
「こっち新人? へえ、えっらく、超美人じゃねえか。男? こいつ? 近頃は女みてーな男多いからな、ナヨッとした。今ってそっちの方が売れるみてーだけど」
 初対面というのに、いい加減千雪の一番嫌いな言葉を並べ立ててくれる。
「女みたいで悪かったやんか。そっちこそヘラヘラうるさいガキやな」
 一瞬静まり返る。

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