誰にもやらない15

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 やっぱり来るんじゃなかった。
 渋々みんなについてきた浩輔は、何十畳もある広いリビングの隅から動く気になれない。
 河崎はやっぱり女に囲まれていた。
 相変わらず煙草を離さないんだよな…って、今更俺には関係ない…か。
『上司に意見するたぁ、いい度胸だな』
『でも、吸いすぎは身体によくないです』
『タバコ屋のクサいコピーを口にするな』
 豪快な振る舞いや少し粗野な仕草も、何も変わっていない。
 つい、視線が河崎を追ってしまう。
 さやかの指が河崎の手に触れる。
 女たちの甲高い笑い。
 河崎の声を耳にするたび、身体が震える。
 ふいに、河崎がこちらに顔を向けた。
 途端、浩輔はその場を逃げ出し、レストルームを探して飛び込んだ。
 俺って、まだ懲りてないのかよ!
 惨めな自分とは決別したはずだったのに。
 今また思い知らされる、記憶の底に沈めるには凄烈すぎる時間。
 車で別荘に着いた時、浩輔はさやかの冷ややかな視線に迎えられた。
 自分に対しては、刺だけでなく、どこまでも毒がある気がする。
 河崎さんが男の俺なんかに手を出したからか? けど、今もこうして付き合っているのは彼女じゃないか。
 どうして能天気なコースケで放っておいてくれないんですか。
 もうマジんなるのはゴメン。
 報われねー思いに泣くのはつれーもん…
 無論、後足で砂をかけるようにして逃げ去った自分などにもう用はないだろうし、意気地のない部下だと嘲ら笑ったくらいだろう。
 だが、その事実が浩輔の胸を締めつける。
 あんなに熱い思いを抱いていた人だ。
 自分から逃げたのだとしても。
 どんなに身の切り裂かれる思いだったかなんて、あの人にはわかるまいけれど。
 好きだった。
 でもそれを口にすることはできなくて。
 ちょっと寝たくらいで、恋人気取りはやめろ、ナニ様だと思ってる、そんな罵詈讒謗を浴びせられるのが関の山だった。
 逃げるしかなかったんだ。
 なけなしのプライドと、ズタボロの心を抱えて、逃げるしか……。


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