誰にもやらない2

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「え………ま…さか…ね」
 聞き覚えがあるような気がして、一瞬足を止めた浩輔だが、ひとり笑って踵を返す。
 そんな偶然がそうそうあるわけがないって。
 浩輔の戸惑いを断ち切るように、ポケットでまた携帯が鳴った。
「ナオちゃん? え? シュークリーム? ってどこの……」
 浩輔は地下鉄の駅へと階段を降りながら携帯を切った。
今度は三時のおやつにシュークリームを買って来いという会社の女子からのお達しである。
「ったく、みんな、人づかい荒いよなぁ」
 ボソボソ呟いたものの、浩輔は電車が表参道に着くと会社の方向とは逆の出口から出て、ご指名のパティシェリーでシュークリームを十個買った。
 ジャスト・エージェンシーは表参道の駅から数分、大通りから二つ目の通りにある古いビルに入っている。
 会社の規模は小さくても居心地は悪くない。
 長引く不況に加え、代理店の未来が危ぶまれるこのご時勢に、社風はいたってのんびりだ。
 社員の出入りは多いが、中には出戻りまでいる。
 ジーンズでご出勤ってのがいーよなー。
 たまにクライアントに会う時に上着を着るくらいだし、年中スニーカーで通している。
 放っておいたら髪は肩スレスレまで伸びた。
 前の会社ではスーツに身を固め、常に緊張した毎日だったのに。
 履歴書には省いたので、浩輔が大手広告代理店英報堂の営業部にいたことも今の会社のみんなは知る由もない。
 もともとお気楽で甘えん坊な浩輔だ、こんな和やかさが自分には似合ってると思う。
 
 やっぱ、あの頃の俺のがおかしかったんだよな、きっと―――。


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