誰にもやらない20

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 当の河崎は噂など歯牙にもかけず、「浩輔、グズグズするな!」と、あたふたと用意をしている浩輔に怒鳴りつけ、会社を出る。
「ウイークデイなのに、あれじゃ、コースケくん、身体持たないわよぉ」
 松井さやかがわざと浩輔に聞こえるように言えば、女子社員たちの笑い声がヒャラヒャラ続く。
 おそらくさやかは、実際に河崎と浩輔の関係を知っていたのだ。
 猫を拾ったのは、河崎のマンションの傍のゴミ置き場だった。
「あの…、こいつ、もってってもいいですか? 俺んとこ、ペットはダメなんです。大家がうるさくて」
 まだヨチヨチ歩きのネコを愛しそうに抱き締め、恐る恐る窺いをたてた浩輔に、「面倒はお前がみろよ」と言っただけで、リビングの隅に浩輔が猫のトイレや缶詰やらのネコグッズを揃えても、河崎は文句を言わなかった。
 ボストンの祖父が河崎に買い与えた外資系企業向けのマンションは麻布にあり、欧米人仕様の造りになっていた。
 ローアンバーで統一された室内には、どっしりとした家具調度が備えつけられ、三十畳程もあるリビング、寝室と二つのゲストルームにはそれぞれバスルームがついている。
 ウォーキング・クローゼット、書斎、キッチン、全てに贅が尽くされた住まいだ。
 河崎が、チビスケ、と呼ぶので、そのままそれが猫の名前になった。
 河崎は浩輔に合鍵もくれた。
 猫の世話のために、河崎の部屋に一度は寄ってから帰るのが浩輔の日課になったが、そのまま帰らせてもらえない日もよくあった。
 けれど、仕事では河崎の創り出すまるで魔法のような世界に、浩輔は次第に魅入られていく。
 どこにでもあるような一つの商品が、河崎の手にかかるとたちまち誰もが振り返るような代物に変わる。
 同時に起用されたタレントたちから、彼らさえ知らなかった魅力を引き出させ、変貌させる。
 浩輔は気づいていたのだ。
 強烈な勢いで自分を喰い荒らした男に、とっくに心まで差し出していたことに―――。


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