誰にもやらない21

back  next  top  Novels


 入社して二度目の夏が過ぎようとしていた。
 CF撮りに立ち会い、河崎の運転する車で山中湖から帰る途中、浩輔はナビシートでその電話を受け取った。
「河崎くんはそこにいるのか? 何度電話したと思ってるんだ! 田口綾乃が三時間も待たされてカンカンだ!」
 馬場課長の怒鳴り声に浩輔は真っ青になった。
「あ、僕が……MECの笹岡さんと、田口綾乃のマネージャーにアポとって……」
 つと河崎の右手が伸びて、浩輔の携帯を取り上げる。
「MECのCF撮りは明日の筈ですが?」
「田口綾乃の方では、今日の午後二時だと聞かされてたと言ってる! どういうことだ?」
 電話の向こうで馬場は声を上げた。
 タイミングの悪い時は重なるものだ。
 河崎は常日頃から苛つくと携帯の電源をすぐに切ってしまう。
 だからこそ浩輔は注意して自分の携帯はいつも携えていたのだが、日中は日差しがきつく、撮影中バイブにした携帯をポケットに入れたまま上着を手に持って歩いていて、車に乗ってからそれを思い出したのだ。
「ったく、役立たずが!! 河崎くん、君は一体何を教育しとるんだ?」
 午後七時、河崎と浩輔が本社に戻るや否や、馬場は怒鳴りつけた。
 普段から河崎を目の上のコブにしていた馬場は、ここぞとばかりに嫌味を並べたてる。
 河崎は河崎で、政治家の縁故で入社した馬場を無能呼ばわりしていた。
「田口綾乃の事務所でも、当分スケジュールの調整がつかないと怒ってる。まあ、君のことだから、なんとかしてくれるんだろうがね!」
 MECが新たに売り出すプリンターのCMには、MEC宣伝部長、笹岡の要望で、売れっ子女優の田口綾乃を使う予定だった。
 MECからは、担当を変えろといってくる。
 今回の件で、MECを怒らせたのはうまくないと、さすがの河崎も上から減俸処分まで言い渡された。
「申し訳ありません! 俺のせいで……」
「てめーのせい? 自惚れるな! 一人前の科白を吐く前に、次から注意を怠るな!」
 河崎は浩輔の謝罪さえ怒鳴りつけた。
 その頃の河崎は海外での営業活動推進プロジェクトにまで引っ張られ、LA、パリと関連会社を飛び回っており、国内での河崎不在の業務を一手に引き受け、会社に泊り込みの毎日が続き、浩輔の疲労は限界にきていた。
 企画書制作から何もかもを、意地でも自分一人でやらざるを得なかったからだ。
 それもみんなが帰った後にだ。


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ