誰にもやらない25

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 ふと気づくと、目の前のウイスキーのグラスがすっかり汗をかいている。
 他のみんなはまだ騒いでいたが、佐々木は別荘から浩輔を連れ出し、二人はマンションで呑み直していた。
 ほろ酔い加減の浩輔は、ついつい心に燻っていた英報堂時代のことをぶちまけた。
「さんざ、イジメにあって、ろくな仕事もできないまま、おっかない上司に恐れをなして、逃げ出したんですよ…ヘへ…情けねぇったら…親父には勘当されたまんまだし…勝手に会社辞めて、親の顔に泥塗ったっつって…こっちにいる兄だけは味方になってくれて時々連絡くれるんですけどね」
 無論、河崎とのことは話すわけにはいかなかったけれど。
「ただ、チビスケのことがちょっと心配で…」
「チビスケ?」
「猫ですよ。俺が拾ったんッスけど…河崎さんちで飼ってもらってて」
 会社を去る時、河崎に宛てた手紙に、どなたかお好きな方に差しあげて下さいと書いた。
 チビスケ、河崎さんが帰ると、ゴハンあげてる俺をほっといて、とんでったもんナ…。
 河崎の部屋から無理に連れ出す気にはなれなかった。
不思議と犬や猫や動物に対する時の河崎の目が人間に対してのそれより優しかった気がしていた。
「まあ、どっかで、可愛がられていれば、いいんッスけどね」
 さやかとよりが戻ったんだろうか。
 田口綾乃とはどうなったんだろう。
 明日は東京に帰るんだろうか。
 また河崎のことを考えてしまう。
 河崎から逃れて、やっと今、本当の自分を取り戻すことができたと思っていたのに。
 いや………そうじゃない…か。
 浩輔は自分で自分を嘲笑う。
 さっきだって、本当に行きたくなければ行かなかったはずだ。
 やっぱり、河崎さんに会いたいと思ってたのは俺じゃん。
 ったく、すくいようがないな……、俺。
 胸が苦しい。
「そっちのジャックダニエルズ、ロックで!」
 隣で琥珀色の液体をなめていた佐々木は、頬を紅潮させながら喚く浩輔を見て苦笑する。
「酔って管巻いたら、その辺に捨ててくるで」
「へーんだ、こんなカワイーコースケくんなら、拾ってくれる人がいっぱいいますって」
「そーゆー危ない科白はやめとき」
「また俺のことガキだってバカにしてますねっ? 言っときますけど、これでも二十六! れっきとしたオ・ト・ナなんッスからぁ」
 半分自棄ぎみに、浩輔はグイグイグラスを空けるが、そのうちソファでひっくり返ってしまった。
「…んとに、可愛いやつ」
 何かあるなとは思っていたが、そんな苦労は思いもよらなかった。


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