誰にもやらない26

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 河崎本人と言葉を交わしたのは初めてだったが、英報道の河崎の噂は佐々木の耳にも届いていた。
 仕事はできても性格がああだから河崎の下で長く続いたためしはないと、業界関係者から聞いたこともある。
 二年も頑張ったやなんて、ほんまにすごいやないか、浩輔。
 佐々木は笑みを浮かべ、浩輔に毛布をかけてやった。
 夜中の二時頃パーティから戻って来た他の連中はバタンキューだったが、明け方、佐々木は何かの音に目を覚ました。
 リビングを覗くと、フロアスタンドの灯りに浮き上がったのはソファの上で嗚咽する浩輔の姿。
 静かに近づいた佐々木が、涙に濡れ、頬に張りついた髪を除けてやると、浩輔の両腕が佐々木にしがみつく。
 いつだったろう、河崎の部屋で熱を出した浩輔が夜中に目を覚ました時、大きな手が頭を撫でてくれたことがあった。
 たったそれだけの優しさだけでも、浩輔は幸せでいられたのに。
 佐々木の手のぬくもりが、あの夜の河崎の手の記憶に重なった。
「河…崎…さん……河崎さん…ううっっ…!」
 切なげに浩輔の口から零れたその名前に、佐々木は思わず身体を強ばらせる。
「浩輔……!?」
 すがりつく浩輔の腕を振り解くこともできず、佐々木はそのまま彼を抱き締めた。
「何で……もう…忘れさせてくれよ…」
 どういうことや? まさか…あのバカ御曹司、女じゃあきたらず、こんなガキにまで…!?
 浩輔を見る時の河崎の尋常でないようすを思い起こし、脳裏に浮かんだ疑惑を完全に否定できないまま、いつも呑気そうな浩輔の笑顔の裏を偶然にも垣間見た佐々木は、そんな浩輔がひどく愛しくなった。
 
 
 
 
「コースッケちゃーん、朝だよ~ん!」
 直子のかん高い声でい浩輔が目を覚ましたのは、ソファの上である。
 ガンガンする頭で、浩輔がダイニングに行くと、既にみんな食事をとったあとだった。
「佐々木さんお手製のフレンチトーストよ」
 テーブルの上には、美味しそうなフレンチトーストが乗っている。
 いつもならガっついた筈だが、昨夜の酒は、浩輔の許容量を超えていた。
「どないした? よもや、俺のフレンチトーストが食われへんやなんて、言わんやろな?」
 明らかに意地悪をしている。
 でも昨夜、まさか、酔っ払って、佐々木さんに余計なこと話さなかったよな…。
 浩輔はムキになって、フレンチトーストに噛り付く。
 佐々木はそれでも、皿を片づけがてら、浩輔の目の前に胃腸薬を置いてくれた。
 どうやら、浩輔は夕べのことは覚えてないらしいな。
 佐々木はそんなことを考えながら、寝癖になっている頭を直子におもちゃにされている浩輔を眺めていた。


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