誰にもやらない28

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「え、う~~~ん…柔らかい映像…っても…」
 急にそんなことを言われても…。
「やっぱ、オンナ、やな」
 考え込んでしまった浩輔の代わりに、佐々木が席を立って持ってきたのは、浩輔のスケッチブックである。
「え、それって…」
 焦る浩輔を無視して佐々木が広げたスケッチブックには、マーカーを大胆に使った、女性像があった。
 イタリアのどこにでもいるジプシーの娘達。
 浩輔は見かけるとすぐにスケッチした。
 盗みと演技を生業とする、黒髪、黒い大きな瞳、野性的で生命力旺盛な娘たちが生き生きと描かれている。
「よし、これでいこ!」
 断定するように、佐々木が言い切った。
 英報堂の横やりのせいで、降ってわいたようなコンペの話の上、浩輔はメインイメージを佐々木から仰せつかってしまった。
しかも時間が限られているのだ、急き立てられるように、ああでもないこうでもないと浩輔はラフスケッチを続けたが、今日も半徹夜の顔で出勤し、既に二日目も終わろうとしている。
「アー! 駄目だぁ~~~~!!」
 浩輔はデスクに突っ伏した。
 カッコイイ女を描けよ、などと佐々木に言い渡されたものの、描いても描いても思うようなものができない。
 しかもふっと手を休めると、やっぱり河崎が何か絡んでいるんじゃないか、などと思考は別の方向に向きそうになり、慌てて首を横に振る。
「やってるな、社運は浩輔の肩にかかってんやからなぁ」
 夜十時を過ぎた頃佐々木が戻ってきて、一人でやっている浩輔のデスクにコンビニの袋を置いた。
「またそうやってプレッシャーかけるぅ! 佐々木さん、なんとかしてくださいよぉ」
 浩輔はつい弱音を吐いてしまうが、佐々木は化粧品会社の次期シーズンのキャンペーンを始め目一杯仕事を抱えている。
 その上にC社のトラブルで、さすがの佐々木も悠長にかまえてはいられない。
「ウン、ええんやない?」
 コンビニの袋からプリン、サンドイッチ、おにぎりなどを出して隣のデスクに並べた佐々木はそこの椅子を引っ張ってきて座ると、浩輔の描きかけのデッサンを取り上げた。
「てぇんでフニャフニャじゃないスか」
「コースケってひたむきで可愛いんやけど、コン詰めるよか、何気にサラってのが、いいもんできたりするんやなぁ」
 佐々木はにっこり笑い、まだ不服そうな浩輔の頭をくしゃりと撫でた。
「はあ…」
 うわの空で返事をした浩輔はサンドイッチに手を伸ばす。
「よぉし、できたらご褒美にコースケの好きなもん、何でもおごってやるで」
「え、ほんとに? やったー!!」
 現金な声を上げたあとで浩輔は、「また、ご褒美、とか言うし…俺のことガキ扱いして」と、唇を尖らせた。


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