誰にもやらない29

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「いやいや、俺はお前と、ちゃんと大人のつきあいしたい思てるんやけどな」
 のらりくらりと論点を外す佐々木があくびをしている傍で、浩輔はその夜のうちに何とか数枚のイラストを仕上げた。
 佐々木はそれを受け取ると、よしよし、よくやった、とまた浩輔の頭を掻き回してから、帰ってゆっくり休め、と自分の部屋に戻っていった。
 この後佐々木にはそのイラストをプレゼンテーション用のファイルに組み入れるという作業が残っている。
 これ以上いても手伝えることもないだろうとは思ったが、佐々木にコーヒーの差し入れをすると、自分の席に戻った浩輔は、朝、佐々木に起こされるまで爆睡していた。
「わ、すみません、俺、寝ちゃってて……」
「何の、コースケちゃんの愛情たっぷりのコーヒーのお陰でバッチリ!」
「できたんですか?!」
 目にクマをこさえた佐々木は、多少いつもの美貌に影がさしているようにも見えたが、満足そうな笑みに、浩輔はほっと胸を撫で下ろした。
 
 
 
 
 佐々木のお達しで浩輔は二年ぶりに一張羅のスーツに袖を通し、佐々木や土橋と共にコンペに出向くことになった。
「新入社員って感じ! コースケちゃん」
 案の定会社の女の子たちは、スーツ姿の浩輔を見て、キャーキャー騒ぎ立てる。
「C社のコンペなんだよ!」
 からかう女の子たちから浩輔をもぎ取るようにして、佐々木は会社を出た。
 外出している土橋とはC社のロビーで直接合流することになっていた。
 午前十時にはプレゼンが始まり、かなり細部まで突っ込んだ説明を要求され、終わったのは十二時過ぎになった。
「クリエイターにマーケティング戦略まで口にされちまっちゃな……高田部長に、頼もしい営業さんが入りましたね、なんて言われてみろ、こっちは立つ瀬がないぜ、コースケ」
 苦笑いを浮かべた土橋がそう言ってため息をつく。
「すみません…俺、必死で…」
 今回この仕事はとれないと決めてかかっていた土橋は覇気がなく、その分、浩輔はつい熱が入ってしまったのだ。


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