誰にもやらない33

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 ところは汐留、英報堂ビルの高層階では、藤堂が珍しく眉根を顰めて歩いていた。
「三浦ちゃん、河崎は?」
 営業部を覗いた藤堂は、デスクでノートパソコンに向かっている男に問い質した。
「はあ、昼から姿を拝見しておりませんが」
 きりりとした応えを返す三浦は、浩輔が辞めた後、藤堂がヘッドハンティングした現在の河崎の部下である。
 浩輔とはまた別の意味で暴君河崎の罵倒にも無茶な命令にも動じない、有能な営業マンを絵に描いたような男だ。
 C社の仕事が結局ジャスト・エージェンシーに決まってからというもの、ほとんどデスクにいたためしがない河崎を探していた藤堂は、空いている会議室で煙草を燻らせているところをようやく見つけた。
「お前、いい加減にしろよ。ここんとこ、何もかも三浦っちに任せっきりで油売りやがって!」
「有能な部下に恵まれた幸せを今噛み締めてるとこさ」
「私的感情で会社を利用するからバチが当たったんだろ。クリエイターもいい迷惑だ」
 河崎は涼しい顔で煙草を噛む。
「会社には極めて献身的に尽くしてるぜ?」
「ふざけんじゃない! 俺がリサちゃんのご機嫌取ったり、スキーツアーのセッティングにどんだけ苦労したと思ってんだ? あの時はロクなこともしなかったくせに、このクソ忙しい時に、何でわざわざヨソのシマにクビ突っ込む?」
 フン、と河崎は鼻で笑う。
「あの佐々木ってクソ野郎がどんな仕事をするか、お手並み拝見ってとこだな」
「いい腕してるって噂だ。アチコチからお声がかかるのに、あのセコい会社から動かない。どっちかってぇと、本人デザイナーってよりモデルとかで使いたくなる美人だよな」
「てめぇまで、あの野郎に当てられてんじゃねぇ!」
「それにしてもナカナカやるじゃないの? メインのデザイン、コースケくんだって? 才能も環境次第ってやつか」
 浩輔を手懐けているらしいことが第一、気に食わなかった。
 仕事に割り込んで、会社ごと振り回してやるなんて姑息なことを考えていたからか? …ハ、浩輔に負かされるとはな、お笑いだ。
 河崎は苦々しい表情で会議室を出る。
「おい、どこ行くんだ? これからミーティングじゃなかったか?」
「クソクラエ」
 藤堂の喚き声を振り切り、河崎はちょうどきたエレベーターにさっさと乗り込んだ。
 何もかもがクソクラエだ。
 河崎は苦々しそうに顔を歪める。
 二年前のあの日、それは河崎にとって青天の霹靂だった。


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