誰にもやらない34

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 ニューヨークから戻ったばかりの河崎に、上司の馬場が、それみたことかと、勝ち誇ったような目つきで浩輔の辞職を告げた。
『お世話になりました。最後まで役立たずの部下で、申し訳ありませんでした』
 浩輔が河崎に宛てた手紙の中身は、他にはチビスケのことをよろしく頼む、とだけ。
 ヘラヘラと懐いてくる浩輔を、媚びを売るその辺の女どもと同じだと…手を出した。
 一皮剥いた面を晒してみろとばかり。
 ところがムキになって俺にぶつかってくる浩輔は相変わらずひたむきで、真っ直ぐで。
 子分を従えたガキ大将よろしく、いい気になっていた。
 俺の後ろを一生懸命チョロチョロついてきた浩輔が、まさかいなくなるなんて、思ってもいなかった。
 女どもが結構ひどい嫌がらせをしていたらしいが、周りが何と言おうと俺についてくればいいんだと、お前もそう思っていたんだと…。
 突然自分の腕の中からすり抜けていったものの大きさに河崎は愕然となった。
 今までかつて味わったことのない、計り知れない喪失感に全身が戦いた。
 河崎は手を尽くして、浩輔の消息を追った。
 フィレンツェの美術学校にいることをつきとめ、連れ戻すことを考えたが、浩輔が考えて出した答えだからと藤堂に諭され、その時はどうにか踏み止どまった。
 昨年の春、浩輔が日本に戻ったのは知っていたが、ついに自分から河崎の前に現れることはなかった。
「そんなに…」
 河崎は唸るように声を出した。
「俺から逃げたかったのか…」
 爪が食い込むほどに拳を握り締め、河崎はガラス張りのケージの中で、冷たい夜の闇の向こうを睨みつけた。
 


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