誰にもやらない36

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 残酷な科白だ。
 河崎がいなければ今の自分はないはずだ。
 ましてや河崎と離れたかったわけではないのに。
 苦しくて、泣きたくなる。
「佐々木はいろいろと可愛がってくれるわけか?」
 河崎は浩輔の肩に腕を伸ばし、その項をゆっくり指でさする。
 既にかなり酒が入っているらしい。
 硬直していた浩輔の身体は加熱し、心臓はドクドク波打っている。
「…佐々木さんは…親切にしてくれます…いろいろ教えてもらって…」
「へえ、手取り足取り…ベッドの中でも?」
 剣のある言い方で含みのある揶揄を受け、浩輔は耳までカアッと赤くなる。
「……そんな…!!」
「どんなやり方で教えてくれるって?」
 唇は笑みを湛えているのに、その目はきつい光を放つ。
 相変わらず河崎の指は浩輔の首筋から離れない。
 背筋をゾクリとしたものが駆け登る。
 浩輔は身動きが取れぬまま俯く。
「俺とは違ってやつは優しい…か?」
 また浩輔の耳元で河崎の唇が動く。
 空気の震えまでもが伝わってくる。
「…あなたに、関係ないです…!」
 自分をからかっているのだ、離して欲しい、と思う傍ら、それでも河崎に惑わされ、その腕に引き込まれてしまいそうな自分を抑えつけ、スツールを降りる。
「浩輔にもうかまうなと言ったはずやで! 今更何の用や」
 佐々木だった。
 いつのまに来ていたのか、苦々しい顔で河崎を睨みつけている。
「佐々木さん…あの…」
 対峙する二人の間に立っていた浩輔は、佐々木に引き寄せられた。
 ふん、とせせら笑い、河崎はスツールを降りる。
「キョウヤ、河岸を変えて飲み直しだ!」
 不機嫌そうな声で怒鳴ると、河崎は浩輔の方をもう見向きもせずに店を出て行った。
「何だってんだよ、一体」
 キョウヤは三人を怪訝な顔で見ていたが、女に腕を取られたまま、河崎の後に続く。
「こっちこそ飲み直しや」
 佐々木が連れていってくれた串揚げ屋で、次から次へと目の前の皿に出されるまま、浩輔はビールと一緒に次から次へと平らげ、むやみやたらとくだらないことで笑った。
 二人が店を出たのは、もうとっくに電車が終っている時間だった。
「ご馳走様でした」
 大通りから狭い路地に少し入ったところにあるその店は、知る人ぞ知る、東京でも十指に入る評判の店だと佐々木は自慢げに話す。
「お前だけに教えたんやからな」
「ハイハイ、ありがとうございます」
 浩輔は笑った。


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