誰にもやらない37

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 人通りの少ないその道を、長い髪の女とのカップルがいちゃつきながら二人を追い抜いていく。
 一瞬、リサと河崎にだぶって見えたと思うと、首筋を這う河崎の指の感触が蘇り、浩輔は身体が震えた。
 あんなの、俺の力じゃない…全て佐々木に導かれただけだ。
 そうだよ! 佐々木さんは優しい人だ! あなたとは違う!!
 黙って逃げ出したのが気に入らなかったから?
 元の部下のくせに生意気に勝った気になってるのが許せない?
 だから俺の前に現れて嫌がらせするのか?
 まだあなたのことを忘れられないってのに!
「浩輔」
「はい」
 佐々木に呼ばれ、心ここにあらずだった浩輔は、はっとして顔を上げる。
「英報堂に知り合いがいてな、悪い思たけど、そいつらからちょっと聞いた。妙な噂があってそれでお前が辞めたんやろてな」
 浩輔は佐々木を凝視する。
「噂だけや、なかったんやな?」
 通り過ぎる車の音が一瞬途絶える。
「…噂…って」
「責めてるんやない。河崎のことなんか、もう忘れろって言うてるんや」
 佐々木は背後から浩輔を抱き竦めた。
 浩輔は驚いて身体を捩ろうとするが、佐々木はさらに強い力でそれを押さえつける。
「どうしても放っとけないんや。あの男と会ってからずっと、お前、あいつに振り回されてるやろ」
 髪にあたる柔らかなものが唇だと気づいて浩輔は身を硬くする。
「…なあ、大人のつきあいしようって言ったやろ? 俺に……しとかへん?」
 首筋にかかる吐息が熱い。浩輔の知らない佐々木の声が耳元で言った。
「さ…佐々木さん…酔ってる? 俺、男だよ…?」
「せやから言うたやろ? 俺はそういうの関係ないし。…俺ならお前を泣かせたりせえへんけど?」
 頭の中が何が何だか全てがこんがらがって目茶苦茶で。
 ずっと泣きたかった気がする。
 こんなふうに抱きしめてくれる腕が欲しかった気がする。
 だけど―――。
「……そんなこと…お母さん、がっかりしますよ」
ようやく浩輔を離した佐々木を振り返る。


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