誰にもやらない41

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「やっぱりそうだ、英報堂の西口さんでしょ? 河崎さんとこの。野間口です。以前、ドラマの件でお世話になった」
 浩輔はおぼろげに男の顔を思い出した。
「あ………その節は……、どうもお世話になりました」
 確か大手化粧品会社をスポンサーに、英報堂も制作に関わったドラマのプロデューサーである。
 もちろん河崎の仕事で、浩輔はその頃、毎日朝から夜中まで駆けずり回っていた。
「あの、実はもう英報堂やめて、別のとこにいるので」
「ああ、なるほど。今はどちらに?」
 野間口は確か四十歳手前、割と人当たりがよく、あちこちで怒鳴られまくっていた浩輔にも穏やかに接してくれた記憶がある。
「ジャスト・エージェンシーという……」
「というと、あの、天才クリエイター佐々木周平のいる?」
 え、と浩輔が佐々木を振り返ると、佐々木本人がやってきた。
「呼びました?」
「お……佐々木さんですか? はじめまして、私、こういうもので、お噂はかねがね……」
 早速名刺交換、ちょっと座りませんかということになったのだが、案の定佐々木の美貌に中てられたか、少し顔を赤らめながらも野間口は担当直入に切り出した。
「実は、急遽、春から夜十一時台なんですが、イリュミネの番組、やることになりまして。前の番組、大コケしましてね。私に何とかしろって、上からのお達しで」
少し太りじしの体躯を細めの椅子に詰め込んだその顔には、中間管理職の悲哀が浮かんで見えるようだった。
「そういえば、さっき、イリュミネのみんなが言ってましたよ」
「そう、C社のCM、おたくがやってんですよね? それで西口さん、この際、タイムCMどうです?」
「え、それは面白いかも!」
 今まではお笑いとアイドル未満の女の子を使っただらだらした番組だったのだが、時間帯を考えても最近の視聴率は下がりっぱなし、この際、十一時台は大きく編成しなおし、全く違ったものを創るというので野間口に命が下ったという。
 野間口が目をつけたのが、人気急上昇中のイリュミネだ。
「三十分で、今考えてるのが、サスペンス仕立てのショートドラマなんですけどね。できればちょっとメジャーな若手女優も使いたいと」
 スポットと違い、番組提供としてのタイムCMは、ほぼ大手代理店が主たる番組枠を握っているので、弱小の代理店が参入するのはなかなか難しい。
 十一時台という時間帯だが、イリュミネの番組ということであれば、ジャスト・エージェンシーだけでなくC社にとっても悪い話ではないだろう。
「では、野間口さんのご都合に合わせて、うちの営業を早速伺わせますので」
「え、西口さん、じゃないの?」
野間口は意外そうな顔を向けた。


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