誰にもやらない42

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「あ、実は今、佐々木さんの下でデザイナーやってるんです」
「そりゃすごい、いつから?」
 人のよさそうな笑顔につられて、浩輔は、一年になると言った。
「英報堂の営業マンなんて、ちょっと手に余っちゃって。結局、二年で逃げ出しちゃいました」
 自虐的に付け加えて、浩輔は苦笑いした。
「いやいや、あのきっつい河崎さんの下で二年もやられたら大したもんです。聞くところによると、長くて一年、下手すると数ヵ月で根を上げるのが関の山だって、ありゃりゃ、これは失礼、余計なこと。じゃ、西口さん、佐々木さん、よろしくお願いします」
 野間口が待たせているスタッフのところへせかせかと戻っていくと、二人は店を出て新橋の駅に向かって歩き始めた。
「土橋さん、早速、野間口さんにアポとってみるって」
「土橋さん、喜んでたやろ?」
 浩輔が携帯で土橋を捕まえて、番組CMの話をすると土橋はかなり興奮していた気がする。
「まあ、そんな感じ」
「うーん」
 佐々木が急に立ち止まって浩輔を見る。
「佐々木さん? どしたんですか?」
「いやあ、コースケちゃんってすごい思て」
「はあ?」
 浩輔はぽかんと佐々木を見上げた。
「打ち合わせ行った先で、ちゃっちゃかでかい仕事取るやなんて」
「え、何ゆってんですか、まだ決まったわけじゃないし、これから詰めていかないと……」
「いや、この仕事、きっとたったか決まるで。局の人間をあんな好意的にさせるんやから、やっぱ、コースケちゃんすごいわ」
「ええ? たまたま昔、仕事で知ってたから。それに佐々木さん、何にも言わないし、俺、勝手に話に乗っちゃってよかったのかなって」
 妙に感心している佐々木に、浩輔は逆に恐縮する。
「悪いはずないやろ。うん、そうやな、コースケちゃんがあの河崎の一番弟子ってのはホンモノやってんな」
 途端、浩輔の表情が曇る。
「やめてくださいよ、だから、俺は使いモノにならなくて逃げ出したんですよ。それをいうんなら、佐々木さんこそやっぱ、すごいなあって。天才クリエイターにケーキなんかおごらせちゃって、どうしよ、って思ってんですから」
 地下鉄のホームへの階段を降りるうちに、発車のベルが鳴り始めた。
「わ、佐々木さん、電車、出ちゃいますよ」
「走るで!」
 ドアが閉まる寸前に二人は電車に駆け込んだ。
 同時に、駆け込み乗車は危険ですからおやめください、という車内アナウンスに二人は顔を見合わせて笑った。


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