誰にもやらない45

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 唐突な質問に、浩輔は戸惑って言葉もない。
「何か、河崎さぁ………」
「あ、そう、そん時、お前、抜け駆けしただろ! 河崎さんにたかって、一人だけいい思いしやがって」
 何か続けて言いかけたキョーヤを遮って、ジョッキのビールを豪快に飲みほし、唇に泡を残したままのトールがそこへ割り込んだ。
「そういやコースケちゃん、あの人の部下だったって? 意外」
「あの人の傍にいれば、女に不自由しなかったんじゃねー?」
 結構もうできあがっているゲンもニヤニヤ笑う。
「そういや、こないだもクラブでさ、モデルのリョウコとヒデミが河崎さん取り合って取っ組み合い? 当の本人は高みの見物だぜ? よくやるよなぁ」
 トールがタバコをくわえながら笑う。
「何かさー、仕事じゃすんげーきっついらしいけど、実際あの人に気に入られれば、もう大船に乗った気になれるって、気前いいし。けど絶対テキにはまわしたかない男だよな」
「ああ、あの人に睨まれたらオシマイって感じ? 影響力、デカいみてぇ」
 確かに、周りの人間は、何とか彼を怒らせないようにと立ち回っていた気がする。
「でも河崎さんは、実力があるって認めたら切り捨てたりしないよ。仮にその人を個人的に嫌いでも。そのかわり、見かけだけのものや、努力しない人間に対しては容赦ないけど」
 メンバーも佐々木も、一斉に浩輔を見た。
 妙に周りが静まり返る。
 佐々木と目が合い、浩輔はつい河崎を擁護するような発言をしたことを後悔した。
 佐々木に答えを求められていることを忘れているわけではない。
 先日、たまたま河崎の仕事を垣間見てからというもの、直子には、「コースケちゃん、ヘーンシン!」なんて言われながら、浩輔は人が変わったように仕事に没頭している。
 仕事にかまけて、浩輔はまだYESともNOとも返事をしていないが、佐々木は優しくて憧れの上司に変わりはなかった。
 そのうち、場所を変えて三次会だ、と、キョウヤが喚きだした。
「明日も仕事が早いし、帰るで、コースケ」
 すかさず、佐々木が念を押すように言った。
「あ、ハイ」
「佐々木ぃ、公私混同してない? コースケちゃん、そんな上司、さっさとふっちまえ!」
 かなりできあがっているキョウヤは大きな声で文句をたれるが、そのままお開きとなり、外に出ると、雨に雪が混じっていた。


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