誰にもやらない54

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 一瞬の間があり、やがてドアが開いた。
「浩輔…」
「チビスケは!? 大丈夫なんですか?」
 つめ寄らんばかりの浩輔の剣幕に、河崎は黙ったまま動かない。
 その後ろから、黒と白のブチ猫がトテトテ歩いてきて、河崎の足元にじゃれながら、ミャア、と鳴いた。
 
 
 
 
「俺に下手な芝居をさせんなよ、バカヤロ!」
 ひとり、エントランスに佇む藤堂のポケットで、携帯が、今度は軽やかに鳴った。
「え、あ、マコちゃん? わりぃ!! 急に仕事が入っちゃって、お昼、行けなくなっちゃってさ。この埋め合わせは…え、あ、ちょっと待てよ!! マコちゃん?!」
 藤堂は再度呼びかけたが、既にツーツーという発信音しか聞こえてこなかった。
 
 
 
 
 しばしの間、浩輔と河崎は互いに状況を把握しかねていた。
「今、電話で、藤堂さんが…あの…」
「義行が、どうしたって?」
 振り返って、浩輔は藤堂の姿を探そうとしたが、後ろのドアは既に閉まっていた。
 気まずい沈黙の中で、覚えていてくれたのだろうか、足元に擦り寄る猫を浩輔は抱き上げた。
 そんな浩輔を、河崎はじっと見つめている。
「あの、河崎さん、馬場さんを殴って、謹慎してるって、藤堂さんが…」
「で? 心配して、来てくれたのか?」
「…チビスケ…ずっと面倒みてくれてたんですね。なのに、俺、俺、ひどいこと言って…」
 涙が頬を伝って落ちた。
 気がつくと、河崎は猫ごと、浩輔を抱き締めていた。
 どのくらいたったろう、苦しくなった猫が、浩輔の腕から抜け出して床に降りた。
 それでも、河崎は浩輔の肩に顔を埋めるようにして、細い身体を抱き締めていた。
 浩輔はやがて我に返り、身体を離そうと身を捩った。
 ようやく河崎は腕の力を抜いた。
「お前が出て行ったのを知った時、俺は途方に暮れた」
 河崎は浩輔の頬に手を伸ばした。
「同時に、自分の腑甲斐無さを呪ったよ。結局、俺はお前を傷つけただけだったんだって」
「俺、俺なんか、河崎さんの傍にいちゃいけないって、そんな資格ないって、だから…」
「俺は、お前を振り回しても、優しい言葉一つ、かけられねー男だからな」
 河崎は自嘲する。


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