誰にもやらない59

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     エピローグ
 
 
 緑が濃くなり、通りを歩くと、蝉の鳴き声はさんざめくし、アスファルトの照り返しがきつい。
それから数ヵ月というもの、仕事以外にも河崎が興す会社の準備も含めて、めまぐるしく走り回った浩輔だが、世の中はいつの間にかすっかり夏に突入していた。
 GWも潰れ、ようやく八月の半ばに何日か互いに日を合わせて夏休みを取れそうだった。
 その初日に浩輔は自分のアパートを引き払い、河崎のマンションに引っ越すことにしたのだが。
 天気予報では台風が東京に上陸すると、しきりと訴えていた。
 かなり大型で風雨も強まるという。
 確かにひどく蒸し暑い。
 明日の引越し大丈夫かな…。
 デスクに頬杖を突いてぼんやり外を見ると、街路樹が強風に喘いでいる。
 その時デスクに置いていた携帯が鳴ったが、浩輔より早くその携帯に横から手が伸びた。
「ハ~イ、もしもしィ? ……誰だ、って誰よ、あなたこそ!」
 浩輔は内心ゲッと呟く。
「ちょ……、ナオちゃん!」
 おろおろと浩輔は直子から携帯を取り返そうとした。
「んなに怒鳴んなくたって聞こえるわよ! 誰よ、このオヤジ! 失礼な奴!」
 やっと直子から奪い取るように電話に出ると、案の定、怒鳴り声が耳元で響く。
「すみません、あの……はい、わかりました」
 河崎は、予定を早めて今夜車を出すから、さっさと会社を上がれと言う。
「こっちだ、コースケちゃん」
 ところが、残業もそこそこにあたふた会社を飛び出した浩輔の前に藤堂が立っていた。
 しかも「浩輔ちゃん、お迎えにあがりました」なんて言うのだ。
「や~ん、引越しって二人で住むんだ! んもー、トードーさん、コースケちゃんのこと、よろしくぅ! バイバァーイ」
 タイミングよく直子が会社から出てくるし。
 だから違うんだってば!
「バイバァーイ」
 にこにこ手を振り返す藤堂に、浩輔は困惑する。
「……何で? 藤堂さん」
「台風も来るし、達也のやつ、今夜は遅くなるんだと。横暴な野郎だぜ、全く」
 ……って、だから、こんな紛らわしいことをするから誤解されるんだ。
 浩輔が河崎の部屋にいるのを知っていながら、時折電話をかけてくるさやかにも心穏やかではないが、マコちゃんに振られて以来、しょっちゅう河崎と浩輔の前に現れる藤堂は、わざと邪魔をしているとしか思えない。
 河崎さんの悪友だか親友だか知らないけど。

 


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