誰にもやらない62

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「あ、スキー場で一緒に、ほら、とびきり明るい子、いたでしょ?」
 そこでやっと河崎の横顔が妙に剣呑になっているのに気づく。
「他のやつを二度と携帯なんかに出すな!!」
「はい…」
 そういえば直子が、『このオヤジ』なんて言っていたのが聞こえたのかも……。
「達也ったら! そんなことで妬いてるの?」
 さやかがケラケラと笑い出した。
 河崎は苦虫を噛み潰したような形相で四人をもうひと睨みすると、無言のまま寝室に消えた。
 予定より早く河崎が帰ってきてほっとしたのもつかの間、浩輔はその低気圧をビシバシと感じている。
 やがてシャワーを浴びた河崎が、バスローブで戻ってきた。
「まだ帰ってねーのか? てめーら」
「その言いぐさはないだろ? 俺はお前の代わりにコースケちゃんの荷物運んだのによ」
「そりゃ、ありがとうよ。だが、外はもう嵐がそこまできてるしな、とっとと帰った方が身のためだぜ」
 河崎は冷蔵庫から缶ビールを取り出してプルトップを引く。
「あら、大変、ここに泊めてもらおうかしら」
「俺はじゃあ、コースケちゃんの部屋に泊めてもらおっと」
「ようし、今夜はぱーっといくか!」
 てんでに勝手なことを口にする。
「きさまら!! さっさと出てけってのがわからねーのか!!」
 嵐の前の雷は、酔っ払いをほんの少し正気に戻したらしい。
 チビスケもソファから飛び降り、これ以上河崎の怒りをかいたくない三人は、わらわらと立ち上がる。
「横暴極まりないぞ!」
「そのうちコースケちゃんを篭に入れてしまっちゃうんじゃない?」
「ケチなんだからよ、カワサキぃ」
 そそくさと出て行った三人に置き去りにされた浩輔。
 雷を一人で受けろって?
「浩輔!」
「はいっ!」
 浩輔は恐る恐る河崎に顔を向ける。
「俺の留守に、奴等をここに入れるな!」
「……はい」
 入れるな、といってもあの藤堂やさやかが納得するとは思えないけれど。
「あの、せっかくだし、河崎さん、飲みますか?」
 テーブルの上には開けたばかりのドンペリが殆ど一本残っている。
「キョウヤが持ってきてくれたんです。佐々木さんからの差し入れだっ………」
 はっとして浩輔は口を閉ざす。
 河崎の目がギロリと光った気がする。
「あっと、俺、風呂まだだし、入ろっと。どうぞ飲んでくださいね……」
 背中に当る視線が痛くて、浩輔は自分の部屋に駆け込んだ。


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