誰にもやらない8

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「ハァ…何とか…生きてますぅ…」
 再び顔を上げた頃には、黒いスキースーツの男は影も形もなかった。
 何だったんだろう、いや、誰だったんだろう?
 俺を見てたなんて、考え過ぎだよな…。
 何故か唐突に一人の男の名前が頭を過ぎる。
 忘れようとしても未だに忘れることができないその名を思い浮かべるたび、キリキリと心が軋む。
 あー、もー、俺ってどーしよーもねーな。
 浩輔は自分に呆れて首を振った。
「どないした? 浩輔?」
 顔を覗き込まれた浩輔は、サングラスを外した佐々木を見上げると、先ほどの胸騒ぎも忘れて、今日もきれいだな、などと一瞬見とれてしまう。
「いいえ! じゃ、行きます!」
「お、気合入ってるやん、よぉし、昼前にあと三回はいけそやな」
「え……あと、三回ぃ……?」
 言葉は優しいが、言ってることはかなり厳しい佐々木の笑顔に、浩輔は思い切りため息をついた。
 
 
 
 
 楽しい遊びにどれだけ夢中になっていても腹は減るらしく、昼のレストハウスやカフェはどこも人で溢れていた。
センターハウスの隣にあるメインカフェテリアの玄関前では、大沢と直子が浩輔たちを待っていた。
「あー、来た、来た。コースケちゃぁん!!」
 直子が両手を大きく振っている。
「おっせーでー、コースケ!!」
 スノーボードを抱えた大沢が大声をあげた。
 シュバッと、仲間の前で佐々木がカッコよく決めてスキーを止めた。
「ワリィ、コースケを上で扱いてたからな」
「ウワッ……と」
 後ろからきた浩輔は、勢い余って佐々木にぶつかり、ガシッと佐々木に支えられた。
 スキーを外のスキーラックに立てかけてカフェテリアの中に入ると、女の子たちが席を確保してくれていた。
 セルフサービスの長蛇の列に並ぶのは男たちの役目である。
「コースケちゃぁん!! あたし、プリン追加ねー」
 直子がよく通る声を張り上げた。
「ホ~ィ」
 慣れないスキーブーツが歩きにくい。
「うわ…」
 浩輔は前につんのめりそうになり、後ろの佐々木にまた支えられた。


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