誰にもやらない9

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「ったく、世話がやけるんやからな、コースケちゃんは」
 佐々木の後ろにいる大沢がわざわざ大仰な言い回しで揶揄する。
「へへ……すみません~」
 笑ってごまかした浩輔だが、ふと、頭の中に男の怒鳴り声が蘇った。
『しゃんとしろ、しゃんと!!』
 あの時ももたついてて、世話かけどおしだった。
 俺って、ホント、役たたずの部下だったよな…。
 やたらと昔のことを思い出すのは、さっきの黒いスキースーツの男のせいだろうか。
「まさかって思ってたけど、ヤダ、本当にコースケクンじゃないの?」
 レジを済ませて席に戻りかけた浩輔の目の前に立った、蛍光オレンジと黄緑も鮮やかなウエア。
 嫣然と美しい女の声に、浩輔の思考は一瞬固まった。
 え……! 何で…、松井さやかがここにいるんだよ!!
 さも小ばかにしたような笑みを浮かべているのは、英報堂にいた頃、浩輔を散々イビってくれた女だった。
「コースケちゃーん、どしたのぉ?」
 直子の声が浩輔を呼ぶ。
「すっかりイメージ変わっちゃったわね。あのコ、彼女?」
 それを無視して席に戻った浩輔の前で、大沢がガツガツとあっという間に大盛りのカレーライスを平らげていく。
 松井さやかがいる、ということは、ひょっとしたら…
 …いや、まさか………
 のろのろとスプーンを動かしながら、さやかのいきなりの出現に、浩輔の頭の中は味も何もわからないほどパニクっていた。
 


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