逢いたい1

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 小樽は朝から雪が舞っていた。
 二月も終盤とはいえ、さすがに凍えるような寒さの中、撮影は早朝の運河周辺で順調に行われた。
 寒さのせいでさっさと終わらせたかったのかどうか、珍しく山之辺芽久がたいして文句も口にすることなく、しかもリテイクなしでシーンを撮り終えた。
 老弁護士の事務所で経験を積んでいる若い弁護士海棠の昔の恋人という重要な役どころだが、このドラマ制作での問題児、モデル出身の山之辺は噂に違わず我儘全開で、スタッフや周りの人間を振り回してきた。
 今回のロケも山之辺のせいで撮影時間が大幅に伸びるなんてことはしょっちゅう、おまけに脚本家と監督が打ち合わせの段階からいがみあい、とばっちりはプロデューサー工藤高広の代行である広瀬良太に降りかかってくるわけで。
 それを見越してこのロケにも十分にと二日間のスケジュールを取った良太だったのだが、少々肩透かしをくらわされた。
 山之辺はこんな寒いところにこれ以上いたくないとばかり、札幌からさっさと東京に帰ってしまった。
「せっかく空いた時間なんだし、良太、ラッキーな休暇だろ? 明日までゆっくりすれば?」
 海棠役の志村義人は良太が社長秘書兼プロデューサー兼雑用係として籍を置く青山プロダクション所属の人気俳優だ。
 志村のマネージャーの小杉と三人で昼を食べた後、ホテルのラウンジに戻ってきたところだ。
 端正な容姿と演技を離れればクールな雰囲気の志村は椅子にゆったりと座り、コーヒーを飲む。
「はあ、まあ、そうなんですけど……なんかいきなりぽかっと空いちゃって、どうしようって感じですよ」
 向かいに座る良太は、また、はあ、と椅子に凭れ掛かる。
「工藤さんのワーカホリックがうつったんじゃないの? 仕事してないと安心できないとか?」
「やめてくださいよ、工藤さんと一緒にしないでください」
 ったく、あんなオヤジと!


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