逢いたい9

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 地獄の大魔王みたいな声だ。
「ドラマの撮影ですが、色々あるので長引くことを想定してスケジュールは二日取っていたんですが、珍しく午前中だけでリテイクなしで撮影が終わったので、山之辺さんはすぐに東京に戻られました」
「ほう、よかったじゃないか。志村も戻ったのか?」
「いえ、志村さんはせっかくのオフだからって、小杉さんと一緒に温泉に行きました。井上先生はスキー、川西監督は温泉へとっとと向かいました。ってことで、ご報告まで……」
 良太は工藤の機嫌をこれ以上損ねる前に、この辺で電話を切ろうとした。
「お前も東京に戻ったのか?」
「えっと、俺は、鈴木さんからオルゴールとか色々頼まれてて、明日……」
「小樽か?」
「いえ、今は札幌に……」
 一瞬、間があった。
 こりゃまた地雷を踏んだかな、と怒鳴られるのを覚悟した良太の耳に、意外に穏やかな言葉が届く。
「部屋は取ったのか?」
「え、ええ、駅近くのビジネスに」
「飯は食ったのか?」
「これからですけど」
「タクシーですぐ来い。『オホーツク』って言えばわかる」
「え、でもこれから坂口先生と打ち合わせじゃ……」
「ああ、今からだ。着いたら携帯鳴らせ」
 例によって携帯はブチッと切れた。
「え………、また気難しい先生と…………」
 良太は携帯を握りしめたまま、もっと遅くに電話をすればよかったと後悔したがもう遅い。
 だがそれより、良太が札幌にいると知っても怒鳴りもせず、良太を呼んでくれたことが何だか嬉しい。
 って、逢いたいから札幌にきました、なんて言えないけどさ………。
 ふう、と溜息を一つこぼし、良太はカフェを出た。


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