ある日の午後1

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 日差しが少しずつ強くなり、鮮やかな緑が輝く六月、梅雨というにはまだ早いある日の午後。
 スポーツウエアブランド『アディノ』の小菅課長と電話で話していた広瀬良太は、昼過ぎにたまたまオフィスにやってきた中川アスカと南沢奈々のオクターブ高い笑い声にふと目をやった。
 二人はここ青山プロダクションに所属する女優陣である。
 中川アスカは昨年主演した映画で今年アカデミー賞にノミネートされ、着実に実力をつけてきた美人人気女優である。
 少しばかり我儘なのは人気女優の証しとでもいっておこうか。
 南沢奈々も若手ではそのキュートな可愛さだけでなく、実力派として知られるようになった将来有望な女優である。
 が、オフともなればおしゃべりで盛り上がる普通の女子と何ら変わりがないわけで、今日は少々年季の入った女子、青山プロダクションの経理主任鈴木さんのデスクに集まって、ずっときゃぴきゃぴおしゃべりがとまらないようだった。
 さっきから沢村選手の撮影予定がもう少し早くならないかと、しつこく良太にくらいついてくる小菅課長に辟易していた良太は、思わず意識を女子たちの楽し気なおしゃべりの方に向けた。
「もう、うっとりしちゃう、カッコよすぎ! ミッシーってば!」
「えー、やっぱ、コウさんでしょ、イケオジにキュン死するう!!」
「あら、ターくん可愛いくて、可愛くて、ほら、朝の珈琲マグ、買っちゃったわよ!」
 奈々が手に持っていた雑誌を胸に悶え気味に主張すれば、アスカが声を張り上げるし、鈴木さんは何やら手にした赤いマグカップを見せびらかしている。
 みっしい? こうさん? たあくん? いけおじ?
 良太の頭の中には保存されていない単語が羅列されていく。
「泣いちゃったわよ、コウさんがターくんに別れを告げるとこ」
「あたしも! だってあれじゃ、コウさん可哀そうすぎる」
「うん、ミッシーはすんごくカッコいいけど、でも、ターくん、背中向けて泣いちゃって可哀そうで、どうなっちゃうのって」
 何だか今度はみんながしんみりしている。。


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