花を追い15

back  next  top  Novels


 久しぶりに母親に連絡を入れてみるかなどと思いながら、良太は弁当を買って会社へと戻り始めた。
「おう、良太ちゃん、お邪魔してるよ」
 会社のドアを開けると、窓際のソファにいた男が手を挙げた。
「ヤギさん、早かったんですね」
「なんかちょっと考え事してたらよ、うっかり早く出ちまって」
「でも弁当、ヤギさんの分ありませんよ」
 良太は奥のテーブルに弁当の袋を置いた。
「ああ、いや昼飯も食ってきた。牛丼の大盛り。しばらく米の飯も食えなくなるからな」
 そう言いながら、下柳は鈴木さんが出したらしい皿の大福をほおばり、茶をすする。
「ま、俺のことはほっといてゆっくり飯食いなよ」
 下柳は湯飲みを持ったまま窓の外に目をやった。
「すっかり春だなあ。そうそう、春といやあ………」
 鈴木さんと向かい合って良太は弁当を広げたが、言葉を切って何やらにやついている下柳を見やる。
「春がどうかしましたか?」
「いやなに、あちらこちらに春もきたってやつ」
「はあ?」
 下柳が残った大福に取り掛かったので、良太も弁当に集中した。
「や、すまないね~、やっぱ鈴木さんの入れるお茶は天下一品」
 良太と一緒に弁当を食べ終えた鈴木さんが入れ替えたお茶を下柳の湯飲みに注ぐと、鈴木さんは「おだててももう何も出ませんよ」と笑う。
「いやいやほんとほんと。日本茶だけじゃなくて前に入れてくれた紅茶、あれも美味かったよ」
「ありがとうございます」
 にこにこと笑いながら鈴木さんは良太と自分のマグカップにお茶を注ぐ。
「でも鈴木さんの紅茶、美味いっすよね。お茶って入れる人によるんですよね~」
 良太もうなずいた。
「まあ、じゃあ今度またとっておきのお茶を入れましょうね」


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ