花を追い22

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 下柳が軽く口にしていた、あちらこちらで春だな、なんて言葉が、その時、良太の脳裏に舞い戻った。
「てなわけだから、良太ちゃん、よろしくね」
 電話の向こうで常日頃から、軽く柔らかく、いつのまにか人を懐柔することにたけている海千山千の主が明るく言った。
 良太の頭に住み込んでいた厄介ごとの一つが、とりあえず解決したことは、既に昨夜、遠征先の広島からハイテンションでかかってきた関西タイガースの四番打者からいやって程聞かされていた。
 今日はかねてよりその四番打者に打診されていた大手アパレルメーカーのスポーツウエアブランドのCM制作がプラグインに決まったと、プラグインの担当者である藤堂が打ち合わせのアポを取ってきたのだ。
 俺はしばらく東京には戻れないから、打ち合わせはお前に一任するとかなんとか、当の沢村和弘に押し付けられた良太は、宇都宮主演のドラマの件で飛び回っているクソ忙しい中、急遽藤堂とデザイナーである佐々木とともに、スポーツウエアブランド『アディノ』へ出向くことになった。
 まさしく沢村の思惑通りというか、思惑を押し通したというか、佐々木が主任デザイナーとなり、その佐々木からも電話が入った。
「また一緒に仕事ができてうれしいよ」
 そう言った佐々木からも、沢村とまではいかずとも溢れそうな感情の高まりを思い切り感じて、先の下柳のセリフがつい浮かんできた、というわけだ。
「あれ絶対、佐々木さんも、かーなーり、沢村のこと好きだよな」
 佐々木が冷たいだわの、俺が思うほど佐々木さんは俺のこと思ってくれないだわの、何だわのと沢村は事あるごとに良太に泣きついてくるが、おそらく、佐々木は沢村が考えている以上に沢村のことを思っているのだろう、と、良太は推察するわけだが、それをわざわざ沢村に教えてやるつもりはない。
「ちぇ、実は春真っ盛りのくせに、だれが教えてなんかやるもんか!」
 少しばかりいじけている良太の切なさからの意地悪ではあるが、そういうああだこうだは当人同士が確認しあえばいいのであって元来第三者が口をはさむことではないのだ。
「馬にけられるのはマッピラゴメン!」


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