花を追い23

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 それでもようやく明日には工藤が帰ってくるため、知らずいじけた心も浮上して成田に迎えに行く時間を確認していた良太に当の工藤から電話が入ったのは昼を過ぎた頃だった。
「俺だ。明日の制作発表、俺の代わりにお前が行ってくれ」
 端的な指令はジェットコースターのように良太の心をダウンさせた。
「え、でももう撮影は終わったんじゃ……」
「藤田に付き合わされて今シドニーだ。二、三日したら戻る。宇都宮は明日朝戻るはずだ」
「あ、じゃ、あの、キャスティング、一応伝えときます。降板した日下部の代わりに本谷和正入りました。それ以外は変更ないです」
「本谷?」
 一瞬、工藤に間があった気がした。
「そうか、まあいいだろう。とにかく、明日は頼む。志村のCMが決まった」
 なるほど、そちらの方がどちらかというと宇都宮のドラマより工藤にとっては優先事項になるだろう。
 藤田自動車の現CEOである藤田は、もともと広報畑の出身でその頃から工藤を気に入って連れまわしていたらしい。
 いつもいつも仕事に口出しをするわけではないが、何か思いつくと腹心の部下を呼び寄せて、企画を通してしまうらしい。
 それが往々にして当たってしまうので、広報部でもたまに藤田がねじ込んでくる仕事をないがしろにもできないようだ。
 だけどな〜
 明日は帰ってくると思っていた工藤の帰国が二、三日も伸びるなんて。
 つまんねーの。
「あら、どうしたの? つまんないこと、あったの?」
 心の声だと思っていたのが、いつの間にか口にしていたらしい。
 画面から顔を上げた鈴木さんに笑いながら尋ねられて、「いやいや、大したことじゃ……」と良太は言葉を濁す。
 いずれにしても明日の制作発表は心して臨まないといけない。
 何せ、NBCの創設六十周年記念番組で、そのために超売れっ子脚本家の坂口陽介をくどき、大物俳優宇都宮俊治を起用してメインスポンサーは藤田自動車というのだからテレビ局側の力の入れようも大きいはずなのだが。


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