花を追い26

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 スタジオから出てきた奈々は良太を見つけて驚いた。
「え、やっぱり! 谷川さん、何か、顔色悪いなって思ってたんだけど」
 後部座席で奈々は泣きそうな声で言った。
「二人とも最近ちょっとハードだったからな。休みもなかったし」
「私は今日のオーディションが終われば、二日はオフなんだけど、谷川さん、ずっと私のことばっか気にかけてて、自分はあんまり寝てなかったみたいなんだよね……」
「インフルだったら奈々ちゃんにうつしちゃまずいと思ったんだよ」
「ごめんなさい、谷川さん………」
 さらに声が小さくなっていく奈々をバックミラーで見て、良太は笑った。
「オーディション、頑張れってさ、谷川さんから」
「……うん、頑張る」
 ついに涙をあふれさせた奈々が手の甲でそれをぬぐう。
「こらこら、何も死んじゃったわけじゃないんだからさ、あの人、鬼の霍乱じゃないのか? 超丈夫な人だし、鍛えてるし。ただ、インフル、AもBも流行ってるみたいだからなー。奈々ちゃんも気をつけろよ」
「うん。気をつける」
 人に言えたものではない。
しょっちゅう風邪を引くのは良太の専売特許みたいなものだ。
インフルエンザの予防接種を受けていても、そんなにいろいろ流行っていたら、どちらかにかかってしまうこともあり得る。
大手出版社が桜川賞作家のベストセラーが原作の映画製作に乗り出したもので、主演とヒロインの大学生役は決まっているが群像劇のために、主要な登場人物を今回オーディションで決めることになっていた。
その脚本家が、ドラマの撮影で見かけた奈々に声をかけてきたのだ。
坂口よりも古いが、大抵手掛けた作品ははずれないといわれる大御所作家楠英夫である。
無論、挑戦しない手はない。
奈々も結構気合が入っていた。
 渋谷に最近できたばかりの大型ビルの駐車場に車を滑り込ませると、良太は奈々を伴ってビルのエントランスホールからオーディション会場となっている二十二階へと上がるエレベータに乗り込んだ。


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