花を追い28

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 良太の心の声も届かず、「あ、そういや、そういうの、いたな」「この子?」「確かにものおじしない大物感があるわね」などとテーブルの後ろの男女が口々に言い始めた。
 ものおじしない大物感って、すっかり業界慣れしてるってとこからか?
 などと突っ込みを入れている場合ではなかった。
「だーかーら、違いますって! 俺はただの南沢奈々の付き添いです!」
 手にしていたリュックを降ろして、良太はごそごそと名刺入れを取り出した。
「青山プロダクション社長秘書、広瀬です。今後ともよろしくお願い致します」
 ペコリと頭を深く下げると、良太はリュックを掴んで部屋を後にしようとした。
「ちょっと待ったあ!」
 またしても先生がそのリュックを掴んで声を上げた。
「秘書でも何でもいいんだよ、とにかく、この役は君しかいない!」
「そうだ、君、今回のオーディションはスター俳優への登竜門と言われている。楠先生がここまでおっしゃってくださってるのを、みすみす逃す手はないと思うよ」
 スーツの男まで出てきた。
 うわあ、誰か、こいつら何とかしてくれ!!!!!
「いや、とにかく、大変、ありがたいこととは思いますが、とにっかく、もうここずーーーーーっとスケジュールが死ぬほど立て込んでいるので、失礼します」
 もう一度深々と頭を下げるとドアに突進し、それでも一度振り返ると、「南沢をよろしくお願いします!」と言い残して、ようやく部屋をあとにした。
 さすがにもう追ってはこなかったが、ただでさえ疲弊している良太の神経を逆なでするには十二分だった。
「なんなんだよ、今の。勘弁してくれよ」
 思わず知らず口にして、良太はラウンジにへたり込んだ。
 そこへちょうど奈々が戻ってきて、「良太ちゃん」と肩を叩いた。
「あ、お疲れ」
「お疲れって、良太ちゃんのがすんごい疲れてっぽいよ? 大丈夫」
「大丈夫大丈夫。帰ろっか」
 成人するまでは実家暮らしをするというのが奈々の両親の条件なので、良太は奈々を車に乗せて八王子へとハンドルを切った。


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