花を追い29

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 都内の老舗ホテルで行われた、NBCの創設六十周年記念番組「田園」の制作発表は滞りなく行われ、陰で見守っていた良太もほっと胸を撫でおろした。
 工藤がいなくても、プロデューサーの挨拶はNBC側のチーフプロデューサー担当なので、何も問題はなかったはずだが、俳優陣が控室に戻っていくその後ろをアスカと一緒に歩いていた良太に、前にいた竹野紗英が「ちょっと、何で工藤さんいないのよ!」と唐突に詰め寄った。
「あなた青山プロの人でしょ? このドラマ工藤さんがやるっていうからOKしたのよ。なのに制作発表に顔出さないって、いったいどういうことよ?」
 ヒロイン役のこの剣幕に俳優陣、関係者らみんなが振り返る。
「あ、いや、申し訳ございません、出席予定だったのですが工藤は急用で」
「なによそれ」
 今度は何だよ、と良太は思わず口にしそうになるのを辛うじて我慢する。
 これまで仕事上でも竹野紗英が工藤に絡んだ事実はないはずだし、まさかプライベートで何かあったのだろうか。
「一体全体どうしたんだよ、紗英ちゃん」
 助け舟を出してくれたのは坂口だった。
「だって、鬼の工藤に会わせてやるっていったの、先生じゃない! なのに顔合わせにも来なかったし、今日は来るはずだって、先生のウソツキ!」
 喜怒哀楽が激しく、表裏のない、自然児のような少女。
 良太は「田園」の原作にあったフレーズを思い返していた。
 確かに、紗英は思ったことをすぐに口にする、常識という言葉では測れない人物のようだ。
 ただ、どうやら紗英はまだ工藤に会ったことがないらしいとは分かった。
 にしたって、坂口センセ、いったい何て言ってこの人口説き落としたんだよっ!
 以前、竹野が受けてくれたと嬉々として良太に電話をしてきた時のことを思い出す。
「まあまあ、クソ忙しい奴だからよ。撮影に入ればいやでも会えるって」
坂口が竹野の肩を抱いて、あやすように言った。
 さすがに呆れた顔で、ったくくだらない、と小声で呟くと、アスカは良太の肩をポンと叩き、秋山を従えて次の現場へと向かった。


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