花を追い37

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 最近タイピングの速度が上がってきてると思うのは気のせいではないだろう。
 いろんなスケジュールをこなすために時短できるところは良太の潜在意識が勝手に時短しようとしているのだ。
 ワインの一本くらいで酔ったとは思えないが、妖し気な瞳の色が気になって、宇都宮の誘いが冗談とも何ともつかないと良太の理性の奥の方で警鐘が鳴っている気がしたからだ。
「そっか、残念」
「あの、よろしければお送りします」
 そういえば今更だが、マネージャーも既に返してしまっていたようで、宇都宮は一人だ。
「それはありがたいな。良太ちゃんと少しでも一緒にいられる」
 ははは、とどう返したものかわからず良太はまた空笑いした。
 エントランスに車を回すというのを、宇都宮は良太と一緒に駐車場までついてきた。
「宇都宮さ…」
 後部座席のドアを開けようとした良太だが、宇都宮は自分で助手席に乗り込んでいる。
「へえ、良太ちゃんの? いい車だな」
「まさか、会社の車です。まあ、ほとんど俺が乗り回してるんですけど……」
 エンジンをかけると、宇都宮は勝手にナビを捜査して自分の電話番号を入れて、目的地を表示させてしまう。
 ナビは御殿山あたりを示していた。
 うわ……宇都宮さん酔ってるのかな。あとで削除しておかないと。
 こんな大物人気俳優の家をそのままナビに残しておくわけにはいかないと、良太は内心焦ったが、宇都宮は「うーん、ナビシートでみる夜の景色ってのもいいもんだな」などと口にしてなんだか陽気そうだ。
「四月も、もう春も終わりか。東京にいると季節の感覚がなくなるよな」
 夜の街に目をやりながら、宇都宮がぼそりと言った。
「やっぱり故郷のがいいですか。釧路でしたっけ」
「そうだね、時々帰るといいとこだと思うよ、田舎も。だが、十八で上京してもう二十何年だ。とっくに田舎で暮らした時間を超えたしね、時々帰るからいいとこだと思うんだろう、きっと。今の俺の居場所はこの街だ」
 じんわりと胸の奥に響くような言葉だった。
「そういうもんですか?」


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