花を追い38

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「そういうもんだよ」
「俺は川崎生まれで、ほとんどこの街と変わりなく季節感もない気がするけど、やっぱ戻りたいって思うことありますよ」
「まだまだだね」
「そうっすか?」
「季節っていえば、花の季節だけはいいよね、こないだの花見、よかったよ。また何かあったら誘ってくれよ」
 ちょうど青山プロダクションのビルの裏庭に見頃に育った桜の木があって、ここ数年、近しい人を呼んで花見の会をやっているのだが、坂口から電話が入ったときに良太がポロっとそのことを話すと、宇都宮と二人でやってきたのだ。
 もう明日には散るだろうという夜だった。
「ええ、よかったらまたきてください」
「釧路はまだこれからだな、花は」
「やはり北の方とか遅いんですね、季節の移り変わりもゆっくりなんだ」
 そういえば、と良太はふと軽井沢に暮らす平造老人のことを思い起こす。
 しばらく会ってないな。
 桜からつい平造を連想してしまうのは、軽井沢の屋敷の庭にある大きな桜の木のせいである。
 いつだったか、工藤がいつかこの桜も見てくれるといいがというようなことを、平造が口にしていた。
 軽井沢も花の開花はまだこれからではないか。
「花を追って、ゆっくり北上する旅ってのもいいよな。まあ、もっとジジイんならなきゃ、無理な相談か」
 気だるげに宇都宮が呟いた。
「それ、何か、いいなあ。まとまった休みとか、やっぱ無理ですか?」
「うーん、良太ちゃんが一緒に旅してくれるっていうんなら、無理にでも取るけど?」
 くるりと良太の方を向いて、宇都宮がにっこり笑う。
「何ですか、それ………」
 そんな戯言をかわしているうちに、車は宇都宮のマンションの近くまで来ていた。
「ああ、ここなんだ。そこから入ってくれる?」


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