花を追い41

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 あんなあからさまに佐々木に妙な視線を向けているのを沢村が知ったら、下手をすると仕事を下りるとでも言い出しかねないのはわかっているので、心のうちにとどめておこうと良太は密かに決意を固めた。
「ちょっと早めのランチ、どうかな」
 アディノ本社ビルを出て少し走ったところで、ハンドルを握る藤堂が聞いた。
 藤堂が車を出してくれたので、サイドシートに良太、後部座席の佐々木は持参した薄いノートパソコンを開いて、説明を受けた仕事のコンセプトからもう何かやりかけているようだった。
「あー、久々みっちりした打ち合わせで何か腹ペコです」
「よーし、それじゃ、おいしい海鮮丼食べに行こう、佐々木さんもいいよね?」
「ああ、そうやね、腹減った気ぃする」
 目はパソコンの画面に向けたまま佐々木はちょっとおざなりな返事をした。
麻布の緑が豊かで閑静な佇まいの中にほわんと灯がともる古めかしい構えの鮨屋があったが、戸口には準備中の札がかかっている。
 近くに車を横付けした藤堂はかまわず引き戸を引いた。
「三人、いい?」
 暖簾をくぐって藤堂が声をかけると、店のスタッフが振り返った。
「藤堂さん、いらっしゃい、いつもありがとうございます」
 若いスタッフが三人を奥のこじんまりとした座敷に案内した。
「メニューとかないんですね、まだ準備中だったし」
 出されたおしぼりで手をふきながら良太が言った。
「ああ、日替わりお任せなんだ。若旦那が最初ランチってことで始めたら、どっと来られちゃったんで、スタッフは少人数だし手に負えなくなってきて、準備中でも入ってきた客には対応するってことにしたそうだよ」
「なるほどー、美味いんだ! 楽しみ!」
 藤堂の横で良太はしきりと感心する。
 向かいに座った佐々木はさすがにパソコンではなく、今度は小さめのスケッチブックに何やら描いている。


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