花を追い44

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 手放しで喜んでいる沢村と話せることが嬉しくないわけではない。
 しかし周りに人がいるだろうところで、そんな大きな声で話していいのかと、佐々木は気を回してしまう。
「今夜から広島やなかったか。電話より疲れ取ることを考えた方がええ」
「俺にとっては佐々木さんの声聞ければ疲れなんか吹っ飛ぶんだよ。なあ、明後日土曜だし、こっちに来ないか? 温泉とか一緒に……」
 それ以上聞いていられずに、佐々木は思わず電話を切ってしまった。
 まったく、あいつときた日には! 少しは周りのことを考えろ!
「あ、切ってしもたけど、よかったか?」
 勢い切ってしまったのが良太の携帯だということを佐々木は思い出した。
「いえいえ、俺には別に、大丈夫です」
 良太は何となく内容を察して、かぶりを振った。
「しかし、スポーツ選手も大変だよな。1年の大半移動移動で過ごすんだもんな」
 藤堂はのんびりとコーヒーを口にする。
「まあ、でも国内リーグはまだいい方じゃないですか? MLBとか移動距離半端ないし、その傘下の3Aとか待遇も過酷だから大変だって、ほら、向こうに行った島岡選手とかにインタビューした時話してました」
 良太はそれでも好きな野球だから苦にならないと笑っていた島岡選手をちょっと羨ましく思ったことを思い出した。
「うーん、何事にも秀でた人は、いや、好きなことでご飯が食べられるというのはなかなかに羨ましいね。沢村くんしかり、佐々木さんしかり、俺とかはそういう才ある人にぶら下がって無理やり仕事をしているみたいな気がする」
 珍しく藤堂がしんみりとしたことを言う。
「そうですか? その割にはあれやこれや面白いことを嬉々として考え出す名人じゃないですか、藤堂さん。大体、藤堂さんなんか別にあくせく仕事しなくても十分暮らしていける人なのに」


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