花を追い52

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 十代の時にバイトで入ったイタリアンレストランで修業をはじめ、ミラノでも数年修行をしてから地元に戻り三十前で店を開いたという吉川は、ひょろっと上背があり、ちょっと見今風のおしゃれな男だが、一国一城の主というだけあって地に足がついている感がある。
「何かほしいものありますか?」
 着替えを引き出しにしまいながら、良太は平造の上掛けを直す。
「いや、ええ」
 アスカのドラマの話や奈々がオーディションに受かって人気脚本家のドラマに出ることになったことなど話しているうちに面会時間が終わる頃になった。
「お前にはお前の仕事があるだろう。屋敷のことはいつも頼んでいる家政婦紹介所の杉田さんに連絡を取ってくれ」
「わかりました。ゆっくり休んで下さいよ。とにかく何か用があったら携帯鳴らしてください。俺、明日はいますから」
 良太がやっと一息ついたのは、駐車場で車に乗り込んだ時だった。
 とるものとりあえず、工藤もほっぽってやってきた良太は、平造の入院という事態に少しパニクっていた。
 小学生の頃、母方の祖父が亡くなった時のことに気持ちが重なっていた。
 父方の祖父母は良太がまだずっと幼い頃に亡くなっていたので、父親も無類のプロ野球好きだが、グローブやバットなど買ってくれたり可愛がってくれた母方の祖父だった。
 かなり前に妻を亡くし、男手一つで母を育てた優しい人だった。
 そんな祖父の訃報はいきなりだった。
 学校にかかってきた電話で家に帰ってみると、すぐに病院に連れていかれ、祖父は既に亡くなっていた。
 くも膜下出血であっという間だったらしい。
 平造が入院、という連絡を受けた時、ふっとそんな記憶が蘇った。
 何となく平造を祖父のような感じで見ていたんだな、と良太は改めて思う。
「あれ、そうすっと、工藤って俺にとってやっぱオヤジの領域ってこと?」
 あんたの親みたいなもんなんだろ、なんて口にしてしまったし。
「いや、そいつはちょっと、可哀そうかも………」
 苦々しい顔をした工藤が目に浮かぶ。


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