花を追い56

back  next  top  Novels


「御殿山まで行ったのか」
「あれ、知ってるんですか? そういや工藤さんとこも近くですよね」
 工藤の家は高輪にあるのだが、あちこち飛び回っている工藤はあまりゆっくり帰ったことはない。
 良太から見ると、会社の上にある部屋の方が居心地がよさそうな気がする。
 と、工藤の携帯が鳴った。
「Hello」
 相手は海外だろうか。
 どうやらオーストラリアで決まったというCM制作の話のようだ。
「これもう、片づけますね」
 工藤は一人前食べたか食べなかったかくらいで、ほぼ、寿司は良太の腹の中に納まっていた。
 最後の一つがもったいないので、パクっとやって、器やグラスをキッチンに持っていく。
「良太、上の部屋、あったまってるぞ。片付けなんか明日にしろ」
 工藤がキッチンに向かう良太に声をかけた。
 東京と比べたら確かに夜は冷え込んでいる。
「はーい! 俺も風呂、入ろっと」
 平造には気の毒だが、思いがけず訪れた工藤とのこんなのんびりした時間が嬉しかった。
 杉田は年配の女性で、たまに別荘を会社の誰かが使うときなど、頼んでいる家政婦紹介所のスタッフで、平造とも茶飲み友達といったところだ。
 曾祖父母が存命の頃から、軽井沢に来るたびに近くに住んでいるのもあって杉田には来てもらっていたので、工藤よりこの別荘のことは詳しいくらいだ。
 もともと平造は自分の経歴や背中の彫り物のこともあり、周りにも不愛想だったのだが、たまたま来てもらってからというもの、杉田の遠慮なく突っ込んでいくような明るい性格がよかったのか、平造も徐々に口を開くようになった、らしい。
 というのもみんな杉田のおしゃべりから良太が聞かされたものだ。
 工藤の小さい頃の話などを聞くと、あの鬼の工藤も子供らしい時があったんだと思って、ちょっとほっとする。


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ