花を追い59

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 リーンリーンと何度もうるさい音が部屋中に響いた。
 一度目は無視したが、二度目は仕方なく良太が受話器を取った。
 枕もとのテーブルに置いてある携帯は、八時半を示していた。
「あ……おはようございます……」
 杉田からで朝食が覚めないうちに起きて来いという内線電話だった。
「杉田さんには午後からにしてもらうんだったな」
 工藤も珍しくまだ起き上がろうとしない。
 良太は仕方なく起き上がると、覚めやらぬ頭のままバスルームへと向かった。
 それでも、オムレツにサラダにパンケーキというホテル並みの朝食の前に、良太の頭は覚醒した。
 良太がきれいに平らげてコーヒーを飲みながら、杉田さんが好きなワイドショーを一緒に見ていると、ようやく工藤が起きてきた。
「お疲れですかね、ぼっちゃん」
 途端、良太は吹き出しそうになる。
 杉田を前に工藤が嫌がるのはこの呼び方だ。
 初めてそれを聞いたとき、顔が笑いで引きつりそうだった。
「だから、その呼び方やめてくれ、杉田さん」
 工藤はどうしても笑いの表情を隠せない良太をジロリと睨みつけてから、テーブルに着いた。
「しょうがないですよ、だってかれこれ四十年、そう呼んでるんですから」
「だから、四十過ぎた男に……」
 工藤は言いかけて辞めた。
「また、パンケーキ残して」
 オムレツとサラダだけ食べ、コーヒーを前に新聞を読んでいる工藤に、杉田がまた文句を言う。
「朝から甘ったるいものはダメなんです」
「昔はちゃんとお食べになったじゃないですか」
 杉田は片付けを始めながら言い返した。
「子供の頃の味覚は変わるんです」
「でも良太ちゃんはちゃんとお食べになってますよ」
 ん? とテレビを見ていた良太は工藤を振り返る。
「子供じゃなくても、イタリア人とか、朝から甘いパンとか食べますよ!」
 何か言われる前に、良太は主張した。


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