ほんの少し届かない 10

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 十五日、取引業者を招いての忘年会を夜に控えて、忙しく電話で連絡を取る良太の横で、ふらりとやってきたアスカがのんびりと紅茶を飲んでいた。
「え~~、あたしも藤堂さんとこのパーティ行きたい~」
 イブのパーティの話を良太から聞いたアスカは口を尖らせる。
「だって、アスカさん、今年のイブはパリでしょう? すてきじゃありませんか」
 羨ましげに言う鈴木さんが届けられたお歳暮の中から美味しいクッキーを振舞うと、アスカは早速それに手を伸ばす。
「バレエとオペラよ、連日。藤堂さんとこのパーティの方がずっと楽しそう。隣は秋山さんだしさ。まあ、秋山さん連れてると見栄えがするからいんだけど」
「人をショーウインドウのデコレーションみたいに言わないでください」
 ぶつぶつと文句を言うアスカに、秋山が口を挟む。
 元エリート商社マンの秋山は常に存在感を消しているようだが、最近縁無しの眼鏡をかけ始めて端正なマスクがさらにクールになり、確かにビシッとスーツを着こなして立つ姿にも隙がない。
 例のアルテミスのCM以来、ドラマの評判がよくてアスカの人気はかなり上の方で定着しつつあり、CMの本数も増え、年末はパリでCM撮影がある。たまたま今日の夜は忘年会にあわせたようにポンと時間が空いたのでこうしてのんびりしているのだ。
「うちの社員ってさ、ルックスは俳優顔負けなのに、中身が難ありなのよね~ 工藤さんも秋山さんも。良太なんかそこそこいけてるのにさ、誰かさんに遠慮して」
「どこに難があるんです? 聞き捨てならないことを言わないで下さい。それより、明日は早いですから、今夜は早めに切り上げます」
「はあい」
 秋山に言われて渋々アスカは返事をする。
 アスカの言っていることは良太にも聞こえていたものの、そんなゴタクに付き合っている暇はなかった。
「…え、三人も都合つかないんですか? あと一人くらい何とかならないでしょうか? ちょっと四人では……、去年よりお客様が多いので、ええ、お願いします」
 案の定、ケータリングの会社から派遣されることになっていたボーイが数人急に都合つかなくなったと連絡があり、良太は四苦八苦していた。ここ数年何かあるたびに利用している会社だが、時折ドタキャンする学生バイトがいるらしく、良太はそれに備えて人数を多めに依頼している。
 にもかかわらずこれだ。
 一応、あと一人時間までに確保するということで電話を置いたが、もしダメな場合は自分も手伝うしかないだろうと覚悟を決める。
「っと、それから賞品はっと……」
「ねえ、良太、工藤さんは?」
 悠長にソファで脚を組んでアスカが声をかける。
「今日は夕方にちょっと顔を出すって言ってました。…っと、ハワイ招待券が…」
 忘年会で行う恒例のゲームの賞品を確認するのに余念がない良太はおざなりに答える。
「ここずっと工藤さん、会社に寄りつかないんじゃないの。良太、ちゃんと手綱とっとかないと、どこで骨休めしてるかわかんないわよぉ」
 相手にしないと思っていながら、ついつい耳障りな発言に良太はイラついてしまう。
「あ~あ、木村ほのかはイブに彼氏とヨーロッパだって。ユキは北海道あたりかしら」
 電撃結婚でマスコミを騒がせた人気女優が、手持ち無沙汰なアスカがつけたテレビ画面の中で幸せそうにイブの予定を語っている。
「聞いた? 俊一のやつまで、今年のイブは万里子がオフだからって、二人でホームパーティだって。あっちもこっちもラブラブでやんなっちゃう~」
 耳障りなのはそれだけでなく、ちょっと街に出るとあちこちから流れてくるクリスマスソングだ。
 アスカでなくてもやんなっちゃう~、だ。
『あのさ』
 良太が忙しく車で飛び回っている一昨日の午後だった。
『ちょっと話あるんだけど、今週とか時間取れないか?』
 携帯に電話をかけてきたのは久々、肇の声だ。
「や…今週はちょっと。土日もないって感じ?」
『そうか……来週は決算もあるから、俺が難しいしな~』
「どしたんだよ、何かあったのか?」
『いや、……まあ…ちょっと』
 リトルリーグからのつきあいである肇のことだし、何やら電話では言いにくいことなのかもしれないと思った良太は、昨日、肇の昼に合わせて仕事の合間、肇の会社の近くに車を回した。
 時間がなくて近くのバーガーショップに飛び込んだ二人は、通りに面したスツールに並んで、忙しなく行きかうサラリーマンやOLを見るともなく視線を向けながら、ハンバーガーを齧る。
「肇、お前、何かやつれてないか?」
 ズズッとコーヒーをすすり、良太は隣の肇に顔を向けた。
「まな、今月は毎日終電まで残業でさ」
 忙しいのは青山プロダクションだけではないと言うことだ。
「で? どうしたんだよ」
 肇はしかし良太と目を合わせようとせず、言いにくそうにハンバーガーをほおばる。
「何かやらかしたのか? 俺にできることがあったら言えよ?」
 心配そうに言う良太に、肇は声も出さずうなずきながら、たちまちのうちにハンバーガーを食べ終えて、喉につかえそうになり、慌ててコーヒーで飲み下す。
「バッカ、いくらなんでも、んな慌てなくてもいいだろ?」
「……おう……」
 コーヒーまで飲み干して、肇はふううと大きく息をついた。
「お前にあやまらなけりゃならないことがある」
「はあ?」
 良太はもったいぶって切り出した肇を怪訝そうに見やる。


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