ほんの少し届かない 13

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 ドラマの撮影でいない奈々とそのマネージャーの谷川を除いて総動員である。タレントも社員もなく動かざるを得ないのがこの青山プロダクションだ。ざっくばらんで人当たりのいい小笠原は、結構業者の間では評判がよかったりもする。
 ビンゴゲームが終わると、良太はふうっと大きな息をついた。
 会の運営を工藤に任されているからには、手落ちのないよう首尾よく終わらせなくてはならない。
 自然に肩に力が入る。
「こりゃまた、盛況だな、おい」
 かなり時間も押した頃になって下柳がスタッフ一同引き連れて現れた。
「ヤギさん、みなさん、忙しいのにありがとうございます」
 編集作業をしているスタジオから駆けつけたらしいカメラマンの葛西をはじめ、石川や村井に頭を下げる。
「時間が時間だしな、もう食いもんも酒もあんまし残ってないんじゃねーの?」
「すみません、十分とはいえませんし冷めたかも……。ヤギさんの好きな焼酎は用意してありますよ」
 良太は申し訳なさそうに言った。
「何の! 冷えてようが食いもんさえありつければ」
 村井や葛西は早速料理が残るテーブルへと突進する。
 良太はボーイの一人を呼んで、下柳らにグラスを用意させる。
「何、工藤のやつ、いないの?」
「ええ、ちょっとはずせないアポがあって」
 すぐ横に立ってこそっと聞く下柳に、良太は苦笑いする。
「良太ちゃんも苦労するな~」
「そうでも……、まだ若いですから。うちのシャチョーこそ、年も考えないで、ろくに食事もしないで飛び回ってるし……」
 つい愚痴った良太の肩に下柳は腕を回してポンポンと叩く。
「いんや、あのやろうのことを心配してくれる誰かがいるってだけで、俺はよかったと思うさ。なあ、煙草の本数が減ってるんだって、良太ちゃんがうるさく言ってくれるおかげだろう? 俺ぁ、やつが携帯用の灰皿なんかを持っているのを見た日には、仰天したなんてもんじゃない。そんだけ良太ちゃんの存在は重大だってことさあね」
「そんなの……俺が言ったからなんてんじゃなく、周りの環境がそうせざるを得ない状況になっているから、仕方なく、なんですよ。忙しいと灰皿てんこもりだし」
「まあ、見捨てないでやってよ。良太ちゃんに見捨てられたらやつも終わりってね」
「な、何ゆってんですか……、俺なんか……そんな」
 下柳の言葉に良太は慌てて反論する。
 そんな存在じゃないのに……。
「あいつ、最近何となく人間らしくなってきたってぇか、うん、そんなとこ? 良太ちゃんがいなかったら、いつまでたっても人間以下っつうか」
「何ですか、それ…」
 良太は笑う。そのまま目を上げた先に秋山が目で合図をしているのが見えた。
「いけね、もう時間だ。あ、でも、ヤギさん、まだゆっくりして下さっていいですからね」
 良太は言い置いて、マイクが置いてある一角に戻っていく。
 終わるまでに戻れたら戻ると言っていたが、どうやら工藤は戻れそうにないらしい。
「いよっ、良太シャチョー、似合うとるぞぉ」
「かっわいい、シャチョーさ~ん、こっち向いてぇ!」
 工藤が急用で席を外していることを告げ、「それでは、社長に成り代わりまして……」最後の挨拶を始めると、あちこちから冷やかしの野次が飛ぶ。
 それにめげず良太は挨拶を終え、手締めで締めくくる。景気よく三本締めだ。
 そういえば、初めて司会で手締めをやらされた時、一本締めと一丁締めを混同していて平造に訂正されたことを思い出す。そういう日本のしきたりのようなことは平造に聞くに限ると良太は心に留め置いたものだ。
 客がぞろぞろと部屋を出て行き、下柳も残り物をたらふく平らげた村井や石川を引き連れて帰り、ケータリングサービスの面々も引き上げる頃、小笠原や志村がそれぞれのマネージャーとともに帰り、翌日のことを考えて早くあがろうと言っていたにもかかわらず最後までいてくれた秋山もアスカを連れて会社を出た。
 ボトルやグラスを寄せていた鈴木さんにも、片づけは明日にしようと言って帰ってもらうと、一人になった良太はふうううと大きく息をついた。
 時計はそろそろ今日の終わりを告げようとしている。
 工藤には食事を取れと言ったものの、目まぐるしさにほとんど乾杯の時のシャンパンを口にしただけだった良太は、急に空腹を感じた。
「カップ麺あったかな~」
 空調を落とし、灯りを消してリラクゼーションルームの鍵をかける。
 自分の部屋に辿り着いた良太は、疲労困憊の頭でまとわりついてくるナータンの世話をやき、スーツを脱ぎ捨ててベッドに倒れこんだ。
「う~~、腹、減った………」
 呟きながらもどっと押し寄せた疲労感に瞼が自然と落ちる。
 どのくらいそうしていたろうか、唐突に鳴り響く『ワルキューレの騎行』に良太は飛び起きた。
「はい、お疲れ様です! ええ、万事滞りなく終わりました。工藤さんの方は?」
『忘年会は終わったが、これからもう一軒つきあう。明日は午後イチでオフィスに寄る』
 それを聞いた途端、良太はトーンダウンする。
「そうですか。俺、昼から『知床』の編集でスタジオ入って、そのあと『パワスポ』の打ち合わせの予定です」
『そうか、何かあったら、携帯に入れろ』
「わかりました。あの、何度も言うようですけど、ちゃんと食べてくださいよ」
『わかったわかった』
 ブチッ。
 相変わらずそっけなく携帯は切られた。


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