ほんの少し届かない 20

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「可愛いじゃない、このタイ」
 胸元が大きく開いた黒とパープルがビビッドなエミリオ・プッチのドレスがよく似合う。
 ひとみは藤堂とは初対面だったが、河崎とは面識があるらしい。当主の河崎は出張でまだ帰ってきていないが。
「おお、デュデ・ノーダン、ヴィンテージものですね」
 藤堂がひとみの持ってきた二本のワインに感嘆の声をあげる。
「こないだ何本か、知人からもらったのよ、美味しかったから、みんなで飲みましょう」
「お心遣いありがとうございます」
「ヤギちゃんは、ほら、好きな焼酎もらったら」
 隣ではひとみをエスコートしてきたというにはかなり不釣合いに見える無精ひげとジーンズの下柳が出迎えた浩輔に煙草はいいかと聞いて、喫煙コーナーを教えてもらっている。
「わかりました。では、こちらはあとでいただくことにして、美味い甲州ワインがあるんですよ、いかがです?」
「いただくわ」
「ヤギさん、お疲れ様です。スタジオは?」
 良太が声をかけると下柳がにやっと笑う。
「おう、良太、ちょっと抜けてきた。俺が横でああだこうだうるさく言うもんだから、編集できねぇってさ」
 下柳は藤堂から焼酎の入ったグラスとワインを受け取り、ひとみにワイングラスを渡すと、そのままひとみに腕を取られて料理が並ぶテーブルへと歩いていく。
「藤堂、皿空いたから料理取り替えるぜ」
 悠が大きな皿を手に藤堂に声をかける。
「大丈夫かい?悠ちゃん」
「ガキ扱いすんな!」
 上目遣いに悠は言い放つ。
「そういえば、玄関にかかってる絵、五十嵐さんですよね?」
 玄関の鏡の向かいにかかっていた楕円形の額に収まった絵は愛らしい猫の絵だ。
「おう……」
 一見して華奢な美少年は、相変わらず挑むような目で良太を見る。
「あれ、可愛いし和むよな~」
「………チビスケは可愛いに決まってる」
  照れくさそうにでも言葉はちょっと乱暴に言い放つと悠はキッチンへと向かう。
「………そうなんだよ、可愛い猫だったんだがね……」
 深刻そうな顔で言う藤堂に、良太は想像をたくましくして言葉をなくす。
「え……それじゃ……」
「ちょっと、勝手に故人みたいなこと言わないでくれます? 藤堂さん」
 割って入ったのは浩輔だ。
「チビスケはこっちはうるさいって寝室で寝てます」
 ビシッと言い切って浩輔は藤堂をちょっと睨む。
「ハハハ……そう、チビスケは河崎家の主でね、達也もその足元にはひれ伏すという」
 良太の肩から力が抜ける。
「ったく、藤堂さん! からかわないで下さい。ああ、そういえば河崎さんて、猫については妙に詳しかったですよね、イタリアロケの時も」
「そうそう……あんな顔して、チビスケにはゲロアマだからな」
「でも藤堂さんも、動物愛護センターとか盲導犬協会とかに、いろいろ寄付してますよね」
 浩輔が言うのに、良太は藤堂はやはりあなどれないと再認識する。
「喜んでもらえればワンコもニャンコにもサンタは参上するんだ」
 ニカニカ笑う藤堂の手元で、またドアフォンのランプが点滅する。
「はい、ああ、良太ちゃんのお友達ですね? 左端のエレベータでどうぞ」
 沢村が来たらしい。
「俺、連れてきます」
 良太がドアを開けると、すぐ沢村はやってきた。
「雨でさ、冷てぇのなんの。せっかくのイブも台無しって感じ」
 濡れたコートを脱ぎながら、沢村が言った。
「お友達って沢村選手だったの? あ、そっか、『パワスポ』で」
 現れた沢村が関西タイガースの沢村とわかり、藤堂はまた大仰に声を上げる。
「逆ですよ、お友達だったので、『パワスポ』なんです」
 訂正する必要もないと良太は思うそばで沢村は抱えていた包みを藤堂に差し出した。
「『越の寒梅』と『酒盗人』です。ロードに行くたびに、好きなんで買うんですよ」
「いろいろともらっちゃって嬉しいなあ、『サンタ、感激!』なんちって」
 藤堂は愚にもつかぬことをハイテンションで口にする。
「何モノ? あいつ、一人受けで」
 こそっと沢村が良太に耳打ちする。
「あれは仮の姿。実はキレモノのスーパーマンなんだ」
「はあ?」
 そのようすを見ていた浩輔が苦笑いしながら沢村のコートを受け取って、クローゼットにかける。
「あら、沢村くんじゃない」
 ひとみが目ざとく声をかける。


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