ほんの少し届かない 22

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「ヤギちゃんに飲ませてもわかんないわね~」
「オールド・ブルゴーニュ、何だか懐かしいな~、いい色だ」
 藤堂がグラスを掲げて言った。
「懐かしいってどうして?」
 良太が聞くと、「若い頃、デュデさんのところに遊びに行ったことがあったんだ」と藤堂は答える。
 グラスを前に、工藤はひとみの隣でそんな様子を面白くもなさそうに見やる。
「ちょっと、せっかくのクリスマスパーティにそんな仏頂面、やめてよね、高広」
 ひとみの辛らつな声が工藤の眉間にまた一つ皺を刻む。
「せっかくのイブにお前の声なんか聞けば、仏頂面もしたくなるさ」
「何よ、それ、感謝してほしいくらいよ」
「まあまあ、お二人とも。せっかくのクリスマス、楽しくいきましょう」
 そう言うと、藤堂はすぐ横にいつもはただ大きなだけの家具と化しているピアノのふたをあける。
 あまり普段は弾かれることのないスタンウェイだが、毎年調律はされているらしい。
 すぐに藤堂の指からジャズにアレンジした『ヒイラギ飾ろう』の旋律が流れ始めた。
「やだ、藤堂ちゃん、ピアノ弾けるの隠してたの?」
 直子や悦子が藤堂の傍に歩み寄る。
「へえ、藤堂さんて、ほんと、侮れない人ですよね、工藤さん」
 思いがけない藤堂の特技を垣間見て、良太は工藤に話しかける。
 工藤は相槌を打つでもなく、ワイングラスを口に運ぶ。
 全く。いきなり電話してくるから何事かと思えば。
 名古屋の工藤にひとみから電話が入ったのは、九時少し前、藤田会長と料亭から出てきて、東京へ戻ろうかと考えているところだった。
 ちょっと飲みすぎたからという藤田は迎えの車に乗り込んだ。
『ちょっと急用なの。今どこ?』
 名古屋だと答えると、早く戻れと言う。
 今ひとみの後ろでワインを飲んでいる須永が東京駅まで迎えに来ていて、何事だと尋ねる工藤を麻布まで送ってきたというわけだ。
 来てみたら、何てことはない、これだ。
 楽しそうに笑う良太を見て、工藤は苦笑いする。
 まあ――――――
 戻るつもりだったのだが。
 やがて、ピアノの弾き手は変わったようだ。弾き語りでホワイトクリスマスを歌い始めたのはキョウヤだ。
「良太、帰るぞ」
 工藤はぼんやりキョウヤの歌を聞いていた良太に耳打ちすると、良太は「あ、はい…」と慌てて後に続く。
 二人に気づいた藤堂がさりげなくクローゼットから二人のコートを持って玄関まで送る。
「すみません、河崎はまだ戻らなくて、せっかくきていただいたのに」
「いや、突然邪魔をしたな」
「とんでもない、わざわざ足を運んでくださいましてありがとうございます」
 藤堂は丁寧に礼を言う。
「あ、良太ちゃん、これお土産」
 良太に差し出したのは綺麗にラッピングされたワインボトルだ。
「甲州ワインだよ。うちの兄貴の奥さんの実家がワイナリーなんだ。古酒もいいけど、若いのもフルーティで美味しいよ」
「わあ、ありがとうございます」
 良太はニコニコと受け取るが、ちょっとふわふわして足元がおぼつかない。


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